【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：店を出していい、と聞いたので

　猫たちの露店に交じって、旅鴉月詠が店を開いていた。
　参道の一角を広く貸し切って衝立を立て、絵画や彫刻、陶器など、月詠の作品が並べてある。
　いわゆる個展だ。

「店を出していい、と聞いたので」

「猫でも付喪神でも見てくれる者はいるだろう」

　鑑賞の導線も確保して、混みあわないように考えられており、月詠の狙い通りメインストリートの混雑を避けようとして通りすぎかけ、つい足を止めてしまう客も多い。
　作品のかたわらには、『鑑賞無料』『作品は買う事ができます』と貼り紙もある。
　いくつかはすでに『売約済み』になっているから大したものだ。
　壁代わりの衝立に飾られているのは、猫などの動物や風景を題材にした数々の絵。
　赤や青など、色をテーマにした人物や心理を描いた絵もある。
　いずれも魔女を名乗る月詠らしい、どこか不条理な独特の魅力がある。
　月詠曰く、作品は描きたいと思った時に描くのだそうだ。
　インスピレーションは唐突に降りて来るのだという。
　それにしても、だ。
　絵画やスケッチは額に入ってたいそうかさばる。
　そのほかに壊れやすそうな猫モチーフの彫刻や、愛らしいかたちの陶器もある。
　飄々とした小柄な月詠が抱えてきたにしては量が多いが……。
　店番に雇った金の毛並みで青い目の二足歩行の猫が、不思議そうに月詠に訊く。
「こんなにたくさん、どうやって運んできたのにゃー？」
「なあに、簡単さ。ろっこんで封印して持ち運びするからね」
　月詠は、簡単な記号のような絵が描かれた紙を一枚、破ってみせる。
　するとどうだ。
　小物入れにもなる猫の彫物がぽんと現れたではないか。
「にゃにゃにゃーっ！？」
　驚く店番猫の前で、次々に紙を破る月詠。小物やイミテーションの宝石、銀のアクセサリーなどで机がいっぱいになる。月詠はそれに値札をつけて並べると、店番猫に伝えた。
「これは売り物だから。受付で売ってくれるかい？」
「了解にゃー！」
「何かあればハンドベルで呼ぶといい。私は店の隅っこで絵を描いてるから」
「おまかせあれ、にゃ！」
　どんと胸を叩いて、その愛嬌で客に声をかけ始める金の猫。
　月詠はアウトドア用の折りたたみ椅子を広げ、そこに座ってスケッチブックに絵を描く。
　描いているのは主に売れた作品の購入者の似顔絵だ。
　お礼もあるが、後で取りにくるから忘れないようにする為である。

◇

　しばらくして、月詠の店に立ち寄ったのはりんご飴を手にした倉前七瀬だった。
「味わい深い絵ですねぇ。この本を読む青い猫の絵なんか、とくに」
　独り言で漏らした感想に、月詠はふと顔を上げて答える。
「異界と比べると奇抜な品物はないだろうが気に入ってくれると嬉しい」
「わあ、作者さんですか。見させてもろてます。ああ、小物とかも売っとるんですねー」
　きらきらする小物に目を惹かれて、受付のテーブルへ向かうと。
「いらっしゃいませにゃー」
　金色の綺麗な毛並みに青い瞳の猫がいた。
「猫が喋っとる！？」
「喋っとりますにゃ」
「でも、よくよく考えたらテオやミラも喋る猫ですし、そこまで驚くほどでもないですね」
「お客さん順応早いにゃー」
「それにしても……ふうむ？」
　七瀬は思わず店番猫をじっと見てしまう。
「な、なんですかにゃ？」
「どことなく誰かに似とるような」
「誰か、ですかにゃ？」
「誰か……というか、ウォルターさんに……」
　気づいた途端、その毛並みを撫でたくてうずうずしてきた。
　七瀬の熱視線に店番猫が一歩あとずさりしたそのとき。
「倉前？」
　七瀬に声をかけてきたのは、本物のウォルター・Bであった。
　七瀬の顔が、途端にほころぶ。
「あ、ウォルターさん、奇遇ですねぇ！？」

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