【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：遭遇する人々

「なに、そんな仰天した顔して」
　ウォルターはくすくすと笑っている。
「まさかホンモノがおるとは思っとらんかったので」
「びっくりした？」
「はい。ウォルターさんは見回りとかでしょうか？」
「そう。五十嵐先生とね」
　ウォルターが顎でしゃくった先には五十嵐尚輝先生がいて、月詠の絵の中でもいっとう奇妙な渦巻きのような絵をまじまじと眺めていた。
「倉前は？」
「僕ですか？　今はウォルターさんに似とる猫をナンパ？　しようとしてたところでした」
「へぇ？」
　ウォルターが愉快そうに片眉をあげる。
「ほら、こちらの店番猫さん。毛色とか瞳の色とか、ウォルターさんに似てませんか？」
　きゃ、と肩を竦める店番の金猫。七瀬のハートがきゅんとなる。
「かわいいですねぇ」
「こらこら。いたいけな猫ちゃんをあまり揶揄っちゃいけないよぉ」
「ならウォルターさん、少しだけ。少しだけ僕と露店を一緒に巡ってくれませんか？」

　ウォルターは五十嵐先生と話して、このあとは各自個別に見回り、ということにしたらしい。
「少しだけだよぉ？」
「はい。あ、あの店、見てもええですか？」
　七瀬がウォルターの腕を引いて立ち寄ったのは、パワーストーンの店だった。
　目の細い猫の店主が、奥に座って細工の作業をしている。
　ここの品物は皆、猫の店主の手によるものらしい。
「好きに見てってにゃ」
「わぁ、猫目石ばっかりですねえ」
　猫が店主だからだろうか。ほとんどの石が猫目石だ。石は黄や黄緑、翠緑色で半透明。下げられた提灯の灯りで一本の筋が入ったみたいに輝くのが猫目石の名前の由来であり、特徴でもある。
「猫目石は魔よけのお守りになるにゃ。事故やトラブルを防ぐ、と言われているにゃ」
「そうなんですねぇ」
　しばらく悩んでいた七瀬は、ストラップにもなる薄緑色の猫目石を選んで、お代を置いた。
「まいどありにゃ」
「こちらこそありがとうです」
　店を離れ、少しだけ人通りの少ないところにウォルターを連れ出すと、七瀬は先ほど買った薄緑色の猫目石のストラップをウォルターにプレゼントする。

「今日は少しの時間でもウォルターさんとご一緒できて嬉しかったけん、これは僕からの気持ちです」

　ウォルターはそれを受け取り、微笑んだ。
「猫の作った魔よけのお守りかぁ。効果がありそうだねぇ」

◇

　暗くなってきたからと買った水色の風船提灯を手に、御巫時子がそぞろ歩いている。
　周りを歩く人たちも、青や黄色や七色など、さまざまな色や模様の風船提灯を手にしているので、それらが重なり合い、揺らぎ合って、まるで宝石箱の中を歩いているかのようだ。
「とても綺麗ですね」
　尚輝先生なら何色を選ばれるんでしょうか？　と考えながら歩いていたからだろうか。
　目に飛び込んできたのは、鳥の巣みたいな彼の髪。
　時子は人混みをかき分け近づいてゆく。
「尚輝先生！」
「御巫さん？」
　振り向いた尚輝先生は、ネクタイと揃えたような緑の風船提灯を手にしていた。
　一緒に回りませんか、と誘ってみれば、尚輝先生ははにかみ、少しならばと頷く。
　時子は尚輝先生の手を取る。
「お魚を使った露店もあるので行ってみましょう」
　わわ、と、つんのめるようについてゆく尚輝先生。
　さきほどの運命万華鏡の店の前を通り過ぎる。
「尚輝先生は運命の万華鏡を覗いてみましたか？」
「いえ。御巫さんは？」
「さっき見ました。……尚輝先生が見えたんですよ」
　きっとあれは今の光景。
　……ううん、それとも、もっと未来だったろうか？
　時子はぽつりと願いを呟く。
「尚輝先生と運命で結ばれてたら良いですね」
　ざわめきのなか、尚輝先生に聞こえたかどうかはわからない。

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