【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：耳福池にて

　
　テオと別れた綾辻綾花が、念願の早川珪先生と遭遇したのは、風船提灯と、ふわふわ肉球型の肉球カステラと、猫耳リンゴ飴と、水中花火の露店に寄ったあとだった。
「珪先生！？」
「綾辻さん。……ふふ、それ」
　珪先生は綾花の顔より浴衣姿より、手にしたさまざまな戦利品に目を止めて、くすっと笑う。
　綾花は思わず頬を染めて、しどろもどろに言い返す。
「あっ、これは、その。気になる露店が多すぎて」
「わかるよ。つい買ってしまいたくなるよね」

「珪先生は露店行かれましたか？」

　にこ、と微笑んだ珪先生が出したのは、綾花とおそろいの猫耳リンゴ飴だ。
「面白そうなものばかりなので迷いますね。運命万華鏡も気になるけど……」
「そうだね。でも今日はやめておこうかな。運命は知らない方が面白そうだからね」
　話しながら自然と歩き出す。
　気づけば足は、耳福池に赴いていた。
　綾花から誘って小舟に乗る。
　買った水中花火を一緒に遊べば、花火も花火の光でカッコ良さが増してる先生も綺麗すぎて。
「綺麗ですね」
「綺麗だね」
「色が変わったり形が変化したりして見てて飽きないです。……あ」
　弾け終えて水中が闇に戻る。
「……でも消えるとやっぱり寂しいです」
「ん」
　珪先生は頷くともなしに頷く。
　闇に落ちる、あたたかな沈、黙。
　しばしそれを味わって、綾花は膝の上でまだ温かい肉球型のベビーカステラを珪先生に差し出した。
「肉球カステラ、どうぞ」
「ありがとう。……ああ、甘くて温かくて、おいしいね」
「珪先生、今日は寒いですね」
　綾花はすこしだけ珪先生のほうに膝を寄せた。
　当たる膝を、珪先生はそのままにしていた。
　月の光が、優しく水面に落ちている。

◇

　ぱちぱちと。
　別の小舟では御巫時子と五十嵐尚輝先生も水中花火に興じている。
「色が変わって飽きないですね」
「ウン……けれど一体、水中で火花が出るということは……」
　尚輝先生は実験中と同じ目つきで池の中を覗き込んでいる。
　きっと頭の中には炎色反応の化学式が巡り巡っていることだろう。
「水に浸けなくても綺麗ですけど水中も全然変わらないです」
「そこが不思議です」
「池に居る魚さんがビックリしないでしょうか？」
　その発言に、尚輝先生は思わず破願した。
「ああ、御巫さんが気になるのはそこなのですね。御巫さんらしい……」
　くすくすと、いつまでも笑い止まないので、時子は思わず頬を膨らませる。
「なんですか、尚輝先生……」
「いえ。僕もそういう視点で楽しめばいいんだと思うとおかしくて……どうなっているかとか一度忘れようと思います」
　そうしてのんびりと、耳福池でのひとときを楽しみ――。