【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●SideA：寝子島神社：これからの自分へ

　祭りもたけなわ。
　万条幸次は、隣を歩く自分より背の高い花遊を見上げる。

　花遊。
　幸次の飼い猫だ。
　けれど、このお三夜の夜だけは、花遊は青年の姿になる。
「オマエ、食べてるか？　好きなもの買っていいんだぞ」
「あはは……」
　幸次は花遊を弟のように思っているが、花遊は自分が兄貴分と思っているようで、上から目線である。
（人の花遊は何度か経験してるからあんまり驚かないけど、相変わらず兄貴ぶってるなぁ）
　等と思いつつ、好きなものを買っていいと言われたからには、と焼きそばとサイダーを買っていると、
「あ、そこのミケちゃん、かわいいじゃん」
　花遊は野良猫をナンパしている。
　まったく、軽いんだから！
「こらこら猫相手にナンパしない」
　耳を引っ張って、三毛の雌猫から引き離す。
「はい。花遊には猫向けの食べ物買ったから」
「おおー、サンキュ！」
　……ネズミぐらいの大きさの何かの丸焼きと瓶詰の何か白い液体だが、花遊は喜んでいる。
「あ、あそこで食べよ？」
　境内の端に、ちょうど二人並べるくらいの石を見つけて、幸次は花遊を引っ張っていってそこに座る。
「そういやオマエ彼女どうした」
「あ、愛猫さん？　今日は予定があるって断られたんだ、無理強いは出来ないよ」
「ふぅん、振られてやんの」
「ちっ、違うってば！」
　赤くなって慌てる幸次は、花遊はにやにやと見つめて、それからおもむろに何かの丸焼きにかぶりついた。
　むぅ、と、幸次も焼きそばを啜る。
　しばし、むしゃむしゃとそれぞれに食べていたが、幸次は、焼きそばを半分まで食べたところで箸を置いた。
「俺さ、マタ大受けようと思うんだ……」
「ん？」
「まだ寝子島にいたいからって理由」
　まだ誰にも話していなくて、でも誰かに聞いてほしいと思っていたことだった。
「先生とかに話したら真面目に考えろって怒られそうだけど、本土の学校を受けたらそっちに移ることになるし」
　花遊は白い液体をあおって、口元をぬぐう。
「とかいって、この島にあのこがいるから出たくないんだろ？」
「えっ、」
　図星を指されて、幸次は口ごもる。
　そうだけど、そううまくいくとは限らないことを、幸次は知っている。
「お前なぁ……それもあるけど、彼女が高校卒業した後この島に残るとは限らないんだよ？」
「ふうん？」
「だから保証されてるのはあと1年だけ。そりゃいてくれたら嬉しいけど、気にせず好きな道を進んでほしいな」
「そういうもんかね」
　そういうものだよ、と幸次はサイダーを一口、のどに流し込む。
「神様とか神魂とか関係なくてもこの島のはちゃめちゃな……じゃなくて独自の風習とか文化とか猫とか、そういうのもっと知りたいし出来るなら貢献したいと思ってるんだ。大学には地域研究なんて部門もあるからそっちに進んでもいいかも」
「いいんじゃねえか？」
　と花遊は言った。
「オレには大学とか研究とか分かんねえけどさ、オマエが決めたことをやってみたらいいと思う」
　花遊は破顔する。
　それを見て、幸次も思わず破顔した。
　花遊に背中を押してもらった気がして。