寝子電スタジアム、静かなる危機｜リアクション

寝子電スタジアム、静かなる危機

「……滴さん……」

　夕暮れ時の中、月原想花はぼんやりとあの日の出来事を思い出す。

　いつからか抱いていた恋心の相手、滴。
　彼女が変貌してしまった日から彼女のことを考えなかった時間など無く、今日もまた頭の中ではぐるぐると駆け巡り、１つの結論を導き出した。

　もう、想花は自覚した。自分のこの胸に秘める感情は『愛』なのだと。
　ならば愛する者を止めることもまた、自分が成すべきことではないか？　そう考える。

（……でも、ぼくは……）

　想花は首を横に振る。
　自分には戦う力など、１つも無い。
　せいぜい出来ることは非戦闘系行動だけ。
　それでどうやって、滴を助けるというのか……。

　少しだけネガティブになってしまった頭の中を晴らそうと、ねこったーを眺める想花。
　すると、その時間帯のトレンドに『寝子電スタジアム』『試合中止』の文字が並んでおり、何かあったのだろうかと思わずタップ。

「な、なにこれ……！？」

　タイムラインに並んだ寝子電スタジアムの惨状。
　黒い何かと、それから逃げようとする人々の悲鳴が入り交じる動画の数々。
　写真を取ってタグ付けで上げている人もいれば、実況配信をしている人もいた。

「これって、まさか……」

　想花はその動画の数々を見て、すぐに心当たりが思い浮かんだ。
　間違いない、滴さんがスタジアムにいる！　と。

「――っ！！」

　そこまで気づいた時には、もう想花の足はスタジアムまで近づいている。
　どろでろろから逃げる人々がスタジアムから溢れ、急いでスタジアムから離れようとしていた。

　既に現場はパニック状態となり、手を付けられない。
　それでも想花は人の流れに逆らってスタジアムへと入っていった。

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