寝子電スタジアム、静かなる危機｜リアクション

寝子電スタジアム、静かなる危機

　楽しそうなその顔がゆがむ瞬間を、目に焼き付けたいと願うのは。
　闇に浮かぶ獣達を従えた黒白滴の黒くて濁った欲望。

　中盤戦に差し掛かったサッカーの中継は程なくして中断される。
　寝子電スタジアムで楽しく観戦を続ける人々の悲鳴が聞こえるまで、そう時間はかからなかった。

「何が起こっている？」

　三毛谷道哉はそんなスタジアムの状況をよくわかっておらず、先立って駆けつけていた海原茂から話を聞く。
　茂がテオから話を聞いた時には既に闇の獣――もとい、どろでろろがスタジアムの全体に散りばめられ、観客にも選手にも、挙句の果てにはスタッフ達にも襲いかかっているそうだ。

「ふむ、どろでろろか。話はきなこから聞いているよ。あやかしが起こした事件だ、私も協力しよう」
「助かる。まずは要救助者を探すところからだな」

　道哉と茂は一度、要救助者を探すために二手に分かれる。
　どろでろろ達が何をしてくるのかわからないため、茂には出来るだけどろでろろを倒してもらい、道哉は三毛猫の姿となって猫特有の素早さを活かして通路を駆け抜けていく。

　通路の途中では運営スタッフが２名ほど、どろでろろに捕まっていた。
　お客の安全を優先した結果逃げ遅れてしまったのだろう、その分の恐怖の感情をどろでろろに吸い付くされているようだ。

　道哉はどろでろろの視界を奪うように前を通り過ぎ、すれ違いざまに爪で一発切り裂く。
　猫の爪というのは人間の皮膚を簡単に割いてしまうもの。どろでろろのような獣であっても、その威力は衰えない。
　悲鳴のような、叫び声のような声を上げたどろでろろは思わず捕まえていたスタッフ達をその手から離し、道哉に向かって突撃してきた。

「よっと！」

　猫の軽やかさを侮るなかれ。どろでろろが突進してきたところで、道哉は軽くどろでろろの身体を飛び越えて、ついでに踏み台にしてそのまま背後へ回る。
　どんがらがっしゃんとどろでろろは掃除用具入れに突撃してしまい、そのまま意識を失う。
　その隙に道哉は再び人の姿に戻り、震えていたスタッフ達に声をかけた。

「大丈夫かい？　君たちは早く逃げなさい」
「で、でも、まだ……」
「数人、スタッフが取り残されてて……！」
「ふむ。それなら、少し手伝ってくれるかな？」

　スタッフが取り残されているという情報を聞いた道哉は、助けたスタッフ達にも協力を促す。
　スタジアムの内部を知り尽くしている彼らだからこそ出来る協力。同じ黒い獣を見つけたり、同じく戦っている人物がいたら知らせて欲しいという簡単なものだ。

「少しでも被害を抑えたい。その気持ちは同じだからね」

　道哉の決意に満ちた目に、スタッフ達もやる気を見出したようだ。
　またしても現れたどろでろろの姿を見ても、恐怖する様子はない。

　そのおかげか、道哉は新たに現れたどろでろろの様子を伺うことが出来た。
　先に倒したどろでろろと何か違うところはないか、弱点は同じかどうか……調べられることは全て、一瞬のうちに終わらせる。

　どうやらどろでろろ達は大きさは違えど、個体としては同じのようだ。

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