寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　フードを着た魔法使いが貴婦人をエスコートするという一風変わった組み合わせではあるが、ハロウィンの寝子島なら別段目を引くこともないだろう。
　まったく、とジェイドはむくれている。
「パレードに行きたいのなら、最初からそうと言ってくれればよかったんだ」
　亜美佳とジェイドは連れだって、パーティを抜け出しパレード会場へと歩いているのだ。これに先だち「行くぞ」「どこへ？」「亜美佳の行きたいところでいい」「じゃあパレードが見たいな」という短いやりとりがあったことも記しておきたい。
　亜美佳によれば恋人探しは二の次で、ただ本格的なパーティーを楽しみたくて参加しただけということだった。小学校教員の亜美佳は無料招待だったのである。ジェイドが駆けつけたときにはたらふく食べ終えた後であり、特定の異性に気があるとかんちがいさせないよう、誰とも会話せず退屈していたらしい。
　さっきの話だけど、と亜美佳は言う。
「最初からそうと言ってくれれば、って、ジェイドの世界にはNYAINとかないでしょ。どう伝えるのよ」
「なくても、なんとかなる」
「なんとかねぇ」
　半信半疑の亜美佳を見て、ジェイドは頭頂から湯気をあげる。
「だがなんとかなっただろう、今日も！　気持ちがあれば伝わるんだ！　俺たちには」
　と言ったままジェイドが口ごもったので「『俺たちには』、何？」と亜美佳は先をうながした。
「俺たちには、その、ええと」
「だから何よ坊や」
「子ども扱いするなって言ってるだろう！　俺たちには絆があるから、そう言いたかっただけだ！　以上、終わり！」
　亜美佳はぷっと吹き出して、やがてゲラゲラと笑い出してしまった。ジェイドの知る本来の亜美佳にすっかり戻っている。
「ああごめんごめん、バカにして笑ったんじゃないよ。言われてみればそうだねと思ったから」
　言いながらもいちいち亜美佳は楽しげなので、ジェイドは口をへの字にするしかなかった。
「でも迎えに来てくれたんだね、ジェイド。お礼は言っておくよ」
「どうしたしまして、だ」
　ふんとジェイドは鼻息した。悪い気はしなかった。
「でも、もしかしてお姉ちゃんが取られるみたいで嫉妬しちゃった？」
「嫉妬ではない！」
　この日一番大きな声を、ジェイドは思わずあげてしまった。
「あと、お姉ちゃんもちがうぞ」
　亜美佳に弟ではなく恋人候補として見てもらえるようになるには、あとどれだけかかるのだろう。