寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　来るたびに景色がちがうのだな。
　ティオレ・ユリウェイスは『ネコジマ』についてこう認識している。
　住民は何かと祝祭好きで、しかも祭りのたびに町の様相を変えてしまう。とりわけ『ハロウィン』とかいう祭りについてはこの傾向が顕著で、中心街はおろか住宅街にいたるまで飾り立て、住民の多くが他の種族や空想上の存在に偽装するのだ。
　ずいぶん前にも『ハロウィン』のさなかに来たんだよな。
　だが、あの時分はここまで大規模ではなかった気がする。
　あきらかに規模が大きく、しかも内容が徹底されるようになっているのだ。見物がてらティオレはぶらぶらと繁華街を歩いた。
　行き交う姿はものの見事なほど仮装者ばかりで、はなはだしきは連れている小動物まで仮装という始末だった。しかも変装のみならず、本当に異形の存在も混じっているようだ。胸元に小動物をのぞかせた男とその娘らしき少女の組み合わせとすれちがったときは肌が粟立った。
　ま、気楽といえば気楽ではあるけど。
　ティオレは星幽塔での盗賊稼業時にまとう服装だった。といっても彼女は『ネコジマ』でいう『ひと』に該当する外観である。強いて言えば『ガイコクジン』にカテゴライズされるようだが、特に珍しくもないようだ。したがってお祭り騒ぎのなかでは単なる『コスプレ』のひとつとして認知されているようで、まるで注目されることはなかった。怪しまれる気配すらない。

　考えてみれば、大手を振って往来をゆく盗賊というのも妙なものではある。万が一素性を疑われたとしても、この島で知り合った裏社会の者を通じて『IDカード』なる身分証も用意している。問題はあるまい。
　途上、逃げる男と追う女という捕り物に遭遇した。男はスリを試みたが女に目撃されていたらしい。身のこなしからして女が一般人に偽装した治安維持のプロであることは一目瞭然だった。
　この世界ではなんと呼ぶのだったか。『コウアン』？　いや『ケイサツカン』だったな。
　ここで仕事をする気はないが、気をつけてはおきたいものだ。
　パレードなる行列を見たり海辺を歩いたりしているうちに、海上にある瀟洒な施設にティオレは行きついていた。
　妙な場所だね。
　施設の窓から眺めてみる。
　パーティ会場らしい。やはり仮装者に満ちているが、繁華街をゆく人々とはどこか様相がちがった。
　若い男女しかいないのだ。老人や子どもは皆無といっていい。それに『コスプレ』の傾向も、ひらひらした飾りつきに袖を通した者の比率がやけに多いではないか。全員もれなく顔の一部または全部を隠しているのも気になった。
　秘密の集会か何かか？
　怪訝な顔をして様子をうかがっていると、
「参加の方ですね？」
　黄色い腕章を巻いた人間に声をかけられ、返事をする間もなく「どうぞ」と中に通された。腕章には『係員』なる文字があったが意味はわからない。
「お名前は？」
　参加者の帳簿なのだろう。たくさんの名前が書かれた紙束を腕章の者はたぐっている。ほとんどの名前には赤いインクで印がつけられていた。出席済みという意味だろう。
　これも一興かもしれないな。
　なんとなく興味が出てきたので、ティオレはまだ印のついていない名前のひとつを指さした。念のためこの世界で『カタカナ』と呼ばれている文字が入っているものを選んでおく。『ガイコクジン』はこの文字の名前であることが多いからだ。
「クリス高松さん？」
「そうらしい。いや、そうだよ」
　本物のクリスとやらが来たら、とっとと逃げればいいだけの話だ。
「お忘れですよ」
　会場に入ろうとしたティオレに、係員が妙な仮面を手渡してきた。黄金の半仮面だ。
　やはり顔を隠すのがここのルールなのだろう。