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寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！
本番は明日の仮装コンテストと決めてはいたが、佐和崎 紗月と初瀬川 理緒はパレードにも参加していた。
ふたりそろって軍服ワンピースだ。どこの国籍でもない謎軍のなんちゃってミリタリールックだが、着れば紗月は知的な女性下士官に見えるし、理緒は理緒でアイドルが一日将軍を演じているように見えるのだから不思議だ。
パレードに加わる直前、理緒は左腕を紗月の肩に置き右腕をななめ上方にあげた。右手にあるのはスマホである。
「じゃ、さっそく自撮りするね？ 撮るよ～」
「ちょ、ちょっと待って理緒ちゃんまだ心の準備がっ」
「いーのいーの紗月は素でじゅうぶん可愛いから。はい、チーズっ」
パシャッと撮ってその場でSNSにアップする。タイトルは『紗月ちゃんとハロウィンデート☆』だ。さすがに理緒は現役グラドル、このあたりの手際は実にスムーズだった。
アップロード完了、それから間もなく、
「ほらほら見て紗月、さっそくバズってるよ」
理緒が見せたスマホ画面内では、小さい数字がどんどん増えていった。『いいね！』のみならずコメントもたくさんついている。
だがバズることそのものに理緒は執着しない。さっと確認してスマホをしまうと、
「ほら行こっ！」
理緒は紗月をパレードにひっぱりこむのだ。うん、と小さな声で紗月も応じた。
電車が通過する高架下、それよりうるさいかもしれない。パレードの内側のことだ。流れている音楽のボリュームが大きいうえに、迷子呼び出しなどの放送、整理する警察の声、そしてもちろん参加者たちのおしゃべりにスマホのシャッター音、四方八方から飛んで来て耳がおかしくなりそうである。
「……」
もともと声が大きなほうではないため、自然、紗月は理緒に耳を寄せる。
「ごめん紗月、周囲がうるさくてよく聞こえない」
なので紗月はもっと理緒の耳に唇を近づけた。
カメラの望遠レンズでこの光景を、熱心に撮影している姿がある。
ベージュのジャケットにデニムの野球帽、しかもジャケットの下はまたもデニムシャツ、まだ若者ならよかろうが中年男である。これが何かの仮装だとしたらそれは、『不審者』こそがふさわしかろう。『カメラ小僧』と呼ぼうにも、とうに小僧の年齢ではなかったから。
男は根東 吉成（こんどう・よしみち）、名刺にはフリージャーナリストとあるが専門はゴシップだ。パパラッチと名乗ったほうがまだ実像に近いだろう。ごく一部の人には、カトーという偽名で知られている。不審なセンスの服装と長くしゃくれたアゴがトレードマークだ。
このところ寝子島に張り付き、寝子島警察署のゴシップを発見してやろうと奮闘していた根東だが、なかなかそんなチャンスに恵まれなかった。ならばと本日は主目的を一時休止し、望遠レンズをカメラにとりつけきわどいコスプレの女性中心にシャッターを切りつづけていたのだ。
嘆かわしいと根東は思っている。最近の女子たるやなんと無防備なことか。仮装を名目にチラリズムどころではない露出ぶりではないか。だったらじっくりたっぷりデジタルデータに収めてやるだけだ！ こういう写真はマニアに売れるので、ちょっとした小遣い稼ぎにもなる。趣味と実益をかねた撮影なのである。
なお今回、根東はコスプレ女子の更衣室にも隠しビデオカメラを設置してきた。ハロウィンだとかいってはしゃぐバカ女にはいいお仕置きだなというのが彼の持論だ。身勝手な理屈？ 少なくとも根東はそう考えたことなどない。
いい被写体を物色していた根東は、パレード内に売れっ子グラドル初瀬川理緒の姿を見いだした。赤ずきんと狼の仮装をした双子のむこうだ。理緒の横にいるのは佐和崎紗月とかいうこれまたモデルだとわかった。先日、夜の水族館での『親密』っぷりがスクープされ、怪しい仲と噂されたふたりである。
「『親友』とか弁明してたんだよなあ、たしか。……ずいぶんな『親友』っぷりじゃねえかオイ」
独言し、舌なめずりしながら根東はシャッターを切った。夢中で切った。
そしてついに決定的な一枚を撮った。紗月が理緒の頬にキスしたのだ。
これで初瀬川理緒の人気も終わったな。
根東は確信した。
LGBTQ全部、根東はまったく理解できないばかりか気色悪いと思っている。世間の大多数もそう思っているはずだと信じて疑わない。
昨年根東は、ある男性政治家の同性愛ネタを撮ってがっぽり儲けた。しかもこいつが、同性愛をタブー視する保守政党の政治家だったのである。すぐにその政治家はすさまじいバッシングを浴びた。これが証拠だと根東は主張したい。表向きは別として、世間はみな内心ではああいう性的嗜好を嫌っているからバッシングしたのだ。
くたばりやがれと根東は思ったし、実際にその政治家はくたばった。政治生命という意味だけではない。自殺したからだ。
さて、そろそろ行くか。
あまり一カ所にとどまっているのはよくない。写真も撮れたことだし根東は離れることにする。
女子更衣室に仕掛けたカメラの様子をチェックしに行こう。
ふたりそろって軍服ワンピースだ。どこの国籍でもない謎軍のなんちゃってミリタリールックだが、着れば紗月は知的な女性下士官に見えるし、理緒は理緒でアイドルが一日将軍を演じているように見えるのだから不思議だ。
パレードに加わる直前、理緒は左腕を紗月の肩に置き右腕をななめ上方にあげた。右手にあるのはスマホである。
「じゃ、さっそく自撮りするね？ 撮るよ～」
「ちょ、ちょっと待って理緒ちゃんまだ心の準備がっ」
「いーのいーの紗月は素でじゅうぶん可愛いから。はい、チーズっ」
パシャッと撮ってその場でSNSにアップする。タイトルは『紗月ちゃんとハロウィンデート☆』だ。さすがに理緒は現役グラドル、このあたりの手際は実にスムーズだった。
アップロード完了、それから間もなく、
「ほらほら見て紗月、さっそくバズってるよ」
理緒が見せたスマホ画面内では、小さい数字がどんどん増えていった。『いいね！』のみならずコメントもたくさんついている。
だがバズることそのものに理緒は執着しない。さっと確認してスマホをしまうと、
「ほら行こっ！」
理緒は紗月をパレードにひっぱりこむのだ。うん、と小さな声で紗月も応じた。
電車が通過する高架下、それよりうるさいかもしれない。パレードの内側のことだ。流れている音楽のボリュームが大きいうえに、迷子呼び出しなどの放送、整理する警察の声、そしてもちろん参加者たちのおしゃべりにスマホのシャッター音、四方八方から飛んで来て耳がおかしくなりそうである。
「……」
もともと声が大きなほうではないため、自然、紗月は理緒に耳を寄せる。
「ごめん紗月、周囲がうるさくてよく聞こえない」
なので紗月はもっと理緒の耳に唇を近づけた。
カメラの望遠レンズでこの光景を、熱心に撮影している姿がある。
ベージュのジャケットにデニムの野球帽、しかもジャケットの下はまたもデニムシャツ、まだ若者ならよかろうが中年男である。これが何かの仮装だとしたらそれは、『不審者』こそがふさわしかろう。『カメラ小僧』と呼ぼうにも、とうに小僧の年齢ではなかったから。
男は根東 吉成（こんどう・よしみち）、名刺にはフリージャーナリストとあるが専門はゴシップだ。パパラッチと名乗ったほうがまだ実像に近いだろう。ごく一部の人には、カトーという偽名で知られている。不審なセンスの服装と長くしゃくれたアゴがトレードマークだ。
このところ寝子島に張り付き、寝子島警察署のゴシップを発見してやろうと奮闘していた根東だが、なかなかそんなチャンスに恵まれなかった。ならばと本日は主目的を一時休止し、望遠レンズをカメラにとりつけきわどいコスプレの女性中心にシャッターを切りつづけていたのだ。
嘆かわしいと根東は思っている。最近の女子たるやなんと無防備なことか。仮装を名目にチラリズムどころではない露出ぶりではないか。だったらじっくりたっぷりデジタルデータに収めてやるだけだ！ こういう写真はマニアに売れるので、ちょっとした小遣い稼ぎにもなる。趣味と実益をかねた撮影なのである。
なお今回、根東はコスプレ女子の更衣室にも隠しビデオカメラを設置してきた。ハロウィンだとかいってはしゃぐバカ女にはいいお仕置きだなというのが彼の持論だ。身勝手な理屈？ 少なくとも根東はそう考えたことなどない。
いい被写体を物色していた根東は、パレード内に売れっ子グラドル初瀬川理緒の姿を見いだした。赤ずきんと狼の仮装をした双子のむこうだ。理緒の横にいるのは佐和崎紗月とかいうこれまたモデルだとわかった。先日、夜の水族館での『親密』っぷりがスクープされ、怪しい仲と噂されたふたりである。
「『親友』とか弁明してたんだよなあ、たしか。……ずいぶんな『親友』っぷりじゃねえかオイ」
独言し、舌なめずりしながら根東はシャッターを切った。夢中で切った。
そしてついに決定的な一枚を撮った。紗月が理緒の頬にキスしたのだ。
これで初瀬川理緒の人気も終わったな。
根東は確信した。
LGBTQ全部、根東はまったく理解できないばかりか気色悪いと思っている。世間の大多数もそう思っているはずだと信じて疑わない。
昨年根東は、ある男性政治家の同性愛ネタを撮ってがっぽり儲けた。しかもこいつが、同性愛をタブー視する保守政党の政治家だったのである。すぐにその政治家はすさまじいバッシングを浴びた。これが証拠だと根東は主張したい。表向きは別として、世間はみな内心ではああいう性的嗜好を嫌っているからバッシングしたのだ。
くたばりやがれと根東は思ったし、実際にその政治家はくたばった。政治生命という意味だけではない。自殺したからだ。
さて、そろそろ行くか。
あまり一カ所にとどまっているのはよくない。写真も撮れたことだし根東は離れることにする。
女子更衣室に仕掛けたカメラの様子をチェックしに行こう。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年01月15日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年01月22日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年01月22日 11時00分
