寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　俺さ、とラッセルは口を開いた。
「風が大好きな子だったんだ」
　見上げる夜空に風が吹いている。自分を見おろす晴月の周囲にも。
　渦巻く風が晴月の髪を揺らしている。晴月は泣きじゃくっていた。
　やだな、女泣かせっていうのはこういう意味じゃないよな――。
　晴月を安心させたい、その一心でラッセルは笑みを浮かべる。
「ただ風をうけてるだけでもよかった。でもそのうち風と遊ぶことを覚えた。紙飛行機も凧揚げも……知ってるか？　ビニール袋をつむじ風に舞わせているだけで無性に面白いんだぜ。何時間眺めてても飽きなかった」
　太い釘を左のこめかみにねじ込まれているような痛みがあった。膝下からやぶったワンピースを晴月が押し当ててくれているがさしたる効果を上げてはいない。きれいな白いワンピースだったのに、いまは真っ赤に染まっているではないか。
「強風も面白いし、台風も好きだ。はは、不謹慎なのは子どもだから許してくれよ」
　それでな、と言った調子にラッセルは咳きこんだ。参ったな、口のなかも痛い。血の味がする。
「でさ、子どものころ、風の精っているのかなーって思ってた。知ったきっかけが本だったか漫画だったかはわすれちまったけど……いるんならこんな姿かなって、絵に描いたこともあるんだ。それがさ、今考えたら晴月そっくりだったんだよ。嘘みたいな話だけどホントだぜ、マジで」
「うん、わたし」
　晴月の目からこぼれおちた涙が、ラッセルの額や頬にしたたり落ちた。
「わたし、風の精！　ラッセルに会うためにここにきたんだよ！」
　夢がかなったな――ラッセルは口に出したつもりだが言葉にはならなかった。
　鳥になって空を飛びたかった。
　風の妖精と知り合って友達になりたかった。
　両方かなうなんて、願ってもなかった。
　やべーな、俺ラッキーすぎねぇか？
　サイレンの音が聞こえる。救急車が来たのだろう。
　なんだよ、もうちょっとゆっくりきてもよかったのによ。
　もっと晴月と話、させてくれよ。せいぜい頭を打っただけじゃねーか。こんなんで死んだりしない。
　ほらみろ、晴月が行っちまうよ。
　夜空に吸いこまれてく。