ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～｜リアクション

ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～

　夏の日差しがじりじりと照り付けるプールサイドに、ぴりりりり、と笛の音が響き渡る。

「はーい、ストレッチは終わりー！　今日も大会に向けて、出場種目の練習と調整をするわよ。うーん……今日は団体競技の練習を中心にしようか」

　そうして、プールサイドで準備運動をしていた水泳部員たちをぐるりと見回しながら水上桜がそう言えば、部員たちがそれぞれに動き始めた。1年生がプールの中央にリレー練習用のコースを作り、その間にメドレーリレーに出場する部員はチームごとに集まって、各々の担当やチームとしての動きを話し出す。
　リレー競技は、個々人の選手が速ければそれで良い……というほど単純なものではない。もちろんそれも非常に重要な要素ではあるが、交代のタイミングや飛び込みの位置取り、もっと言えば選手同士の相性だって、十分に大きな要素なのである。

（それを全部考えてチームを組んだ、ハズなんだけどね）

　そんな部員たちの様子を見ながら、桜はパラ、と手元のバインダーを覗き込んだ。そこには、桜が顧問になってから書き込んだ部員たちの情報が、びっしりと書き込まれている。
　――大学を卒業し、色々あって母校である寝子島高校に教師として戻って来たのは、つい数年前の事だ。在学中は水泳部だったんですよ、と面接のときに尋ねられて答えたら、入職と同時に「水上先生は水泳がお得意だって聞いたから」と、幾つかある水泳部のうちの1つの顧問を任されたのである。
　なんで家庭科同好会の方を言わなかったんだろう、と思いはしたが後の祭り。その日から桜は、自分の高校時代の事を思い出したり、体育科の先生に相談したり、自分でも水泳指導の本などを読み漁ったりして、水泳部顧問として奮闘しているのだった。
　閑話休題。
　リレーメンバーとその補欠たちの情報を再確認している間に――もちろん桜は部員全員の情報を一通り覚えてはいるけれど、たまにとんでもない勘違いをしている事もあるので、都度確かめるのは大事だ――生徒たちの方も、話し合いが終わったらしい。プールの中央レーンではメドレーの練習が始まり、その両脇のコースでは個人競技の練習や、まだ試合に出られない部員が基礎練習を始めている。
　それをぐるりと眺め渡して、壁付の時計で時間を確認した。ゆっくりとプールサイドを歩いて見回り、マネージャーと今日のタイムスケジュールを話したり、何人かの部員にはアドバイスをしたりする。
　水上先生、とメドレー練習の方から声がかかった。

「どうしたの？」
「俺、御子神と競技を変えても良いですか？　どうもしっくり来なくて」
「そうなの？　御子神君も？」
「はい」

　そちらへと近寄り話を聞いてみれば、リレーメンバーのうち、2人の男子部員が揃って訴えてくる。ふむ、と桜はまたバインダーを見て確認した。
　2人とも、今までも同じチームで、同じ競技で出場してきた生徒だ。何種類もの競技に出る者も少なくはないため、2人とも、互いの種目を遜色なく泳げることも知っている。
　それが、ここにきて『しっくり来ない』から『競技を交代』。もちろん、それが本人達にとってベストならば良いのだけれど――

「先生も1度、確認するわ。もう1度やって見せてくれる？」

　2人を含めたリレーメンバー全員にそう声を掛けると、はーい、と良いお返事が返ってきた。桜が、強権を発動して自分の采配を無理やり押し通すような指導者ではない、と判っているのだ。
　ゆえに選手4人が位置につき、ストップウォッチを持った部員2人がプールの両端に立つ。今は審判役をしている彼らも、あとでチームの補欠としてリレー練習をするはずだ。

「Take your marks……」

　慣れた様子で声を上げ、合図代わりに両手をパンと鳴らすと、ばしゃん！　とトップが勢いよく泳ぎ出した。まずは背泳ぎ、そのあとに平泳ぎ、バタフライ、自由形と続くのだ。
　その様子を、じっと桜は見つめて何か問題がないか、無いなら何が変わって『しっくり来なく』なったのか、見極めようとする。判る時も、まったく判らない時もあるけれど、まずは見極めようと努力することが大事だ。

　概ねこんな風にして、桜の顧問生活は過ぎて行くのだった。

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