ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～｜リアクション

ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～茄子編～

　一体何を探す旅だったのか、もう随分と思い出せないまま佐藤英二は、旅から旅へと歩き続けていた。旅から旅へ――街から街へ。
　確かに何かを探して旅だったはずの、記憶はけれどもはるかに遠い。さて、それは人だったのか、モノだったのか、場所だったのか。

「だったらもう、いいんじゃないの？」

　英二にそう言ったのは、とある街で出会った少年だった。その場その場で日雇いの仕事や、短期のバイトに就いては旅費を稼いでいた英二の、もう数え切れないほどにたくさん居た、何人目かの同僚だ。

「思い出せないってことは、その程度の物だったってことデショ。そんな訳わかんない旅なんか止めて、この街で暮らせば良いんじゃないの？」
「うーん、でも、探さないといけないから」

　それは理屈ではなく本能なのだと、告げれば「そんなもんかねぇ」と少年は訝しげに肩を竦める。心配、されているのだと英二にも解っていたけれど、本当にそれは、理屈ではないのだ。
　探さなくてはいけないと、英二の魂が告げている。叫んでいる。誰なのか、何なのか、どこなのか判らない『ナニカ』を探したいと、探すのだと、夜毎夢に見ては掴み損ねて目が醒める。
　そんな事を、けれども英二は少年に、詳細に告げはしなかったけれども。少年は、そこそこの旅費を稼いだ英二が次の街へと旅立つその日、気が向いたら戻って来いよと心配そうに、でも引き留めるのは無理なのだと困ったように、見送ってくれた。
　――申し訳ないな、という思いは少し、ある。否、もしかしたらかなり、ある。

（だって、何を探しているのか判らないのに）

　なぜ旅を続けているのだろうと、自分自身ですら思う事があるのだから、彼の疑問も言葉も何もかも当然のことだった。彼だけではない、今まで通り過ぎてきた街の中には、そんなアテの知れない旅は止めてここで暮らせば良いのにと、英二を引き留めてくれる人だって少なからず居たのだ。
　ひどく居心地のいい街もあった。暮らしやすい街もあった。いつか永住するならこんな所が良いなと、思う街すらあった。

　――嗚呼、けれども。

　何もかも忘れてしまおう、何を探しているのか判らない旅なんて止めてしまおうと、思うたびに英二の胸は、なぜだか張り裂けそうになるのだ。それはダメだと、絶対に見つけなければいけないのだと、焦燥に駆られて苦しくなるのだ。
　だから英二は旅を続ける。旅から旅へ、街から街へ、何とも知れない物を探し続ける。
　――旅を始めて幾つ目になるのかも分からない、どこかの街に着いた英二はまず、足の向くままに歩き回った。何かを探しながら、同時に住み込みの仕事がないか、あるいは安全そうな安宿はないか、確認して。
　少し休もうと、目に付いた公園のベンチに腰を下ろした。此処での逗留がどれくらいになるか判らないから、出来るだけ費用を抑えるために、空腹を訴える胃をシリアルバーとミネラルウォーターで宥める。
　そんな英二に、ねぇねぇ、とふいに声がかけられた。

「そのシリアルバー、英二くんも好きなの？　美味しいよね、それ！」

　そうしてにししと笑った笑顔は、初めて見るはずで、けれどもひどく懐かしい心地がした。○○さん、と呟いた名前が何だったのか、英二自身にもよく解らないけれども、うん～？　と彼女は笑顔で楽しげに首を傾げる。
　――嗚呼。僕はずっとずっと長い間、あなたの事を探していたんだ。

このページにイラストを設定する