【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！｜リアクション

【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！

●第一．五幕　マクダフ登場

（ぼくはフジコ先生が苦手だ）
　月原想花は、薄暗い舞台袖で体育座りで縮こまっていた。
　
　――見事私の犬の座を獲得したのは、月原想花ちゃん、あなたよ。

　リフレインするフジコ先生の声。
　中間テストで赤点を取ってしまった想花は、フジコ先生による流しそうめん式追試を受ける羽目になり、そこでも赤点を取ってしまったことで『フジコの犬』という不名誉な称号を得てしまったのだ。
　そのフジコ先生に、びしり指差されて指名されては、逆らえるはずもない。
（ぼくが役者として出演する羽目になるなんて……！　ぼくはそういうの苦手なんだってば！）
　いやいやと首をふる。
（でも強制出場。どうしよう……）
　舞台はもう始まっており、第一幕を終えたマクベス役のフジコ先生がロミオとジュリエットを刺し殺して舞台袖に戻ってくるところだ。
（題材はロミジュリなのに、なぜかフジコ先生はマクベス役……）
　そのとき想花の脳裏に稲妻が閃いた。
（それならぼくは……マクベスを仇敵とするマクダフっていうのはどうだろう！？）
　マクダフとは、『マクベス』でマクベスに妻子を殺され、マクベスを仇と狙うスコットランド貴族である。マクダフは今でいう帝王切開で生まれたという設定で、『女の股から生まれた者に殺されない』と魔女に予言されていたマクベスを死に追いやる役でもある。
　想花は突如ワクワクしてきた。
（あんなふざけた追試の問題を出したんだから、芝居の上でのこととはいえ、これで一矢報いることができるじゃないか！）
「時代毎に転生するマクベスとともに転生してを仇として付け狙うマクダフ。時代ごとにマクベスはロミジュリを破滅に追いやるのだけど、ぼくはそのマクベスをその時代ごとに倒しては転生する……うん、いい！」
　復讐心を隠しつつ、想花はフジコ先生に自分の思い付きを話した。するとフジコ先生は膝を叩いてアイデアを受け入れ、あれよあれよという間に想花に甲冑を着せて、舞台上へと送り出したのである。

「仇敵マクベスよ！　このマクダフが成敗してくれる！」
　上手から意気揚々と登場するマクダフ／想花は、普段の想花からは想像できないほど堂々としている。
　下手側からマクベスが登場する。
「ああら！　あたしの犬が吠えてるわ！　キャンキャン煩いったら！」
　犬、というワードに反応するマクダフ／想花。剣を一気に抜き放つ。
「ここで会ったが百年目！　我が剣の錆にしてくれる！」
「あたしは女の股から生まれた人間には手がつけられないのよ！」
「このマクダフは女の腹を裂いて出てきたのだ！」
　マクダフ／想花、マクベスを切りつける。
　倒れるマクベス。
　悠々と舞台上から去るマクダフ／想花。
（ああ、すっきり！　マクベスは転生するたび何度もマクダフに殺されるんだ。どんどんマクベスを追い込んで、追試の恨み、晴らさせてもらうんだから）

　暗転し、スポットライトがお茶会をしている魔女／紫苑を照らし出す。

「ああら、マクベス様、やられておしまいになったのですか？　起きて起きて」
　魔女／紫苑がマクベスを起こし、お茶会の席に着かせる。
「あたた……マクダフめ。思いっきり切るんだから」
「厄介なお相手に目を付けられましたね。でもご安心ください。私はマクベス様のお味方。マクベス様が負けることはない、バーナムの森が動かない限りは」
「バーナムの森が動かない限りは」
「ほら、御覧ください、今日のクッキーの盛り付けによると、ロミオさん達がまた素敵な恋愛をしておられるようですわ」
「なんてこと！　次はどこへ！　早速邪魔をしに行くわよ！」

　この劇のストーリーに、お約束ができた。
　悪役マクベスがマクダフに殺される。
　魔女のお茶会を経て、次の世界にゆくというお約束だ。

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