【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！｜リアクション

【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！

●プロローグ

　バリバリ、と激しい音と光が雷鳴を演出する。

「きれいは穢（きた）ない。穢（きた）ないはきれい」

　すっぽりと被ったローブで顔を隠した魔女役の巫部紫苑。
『きれいは穢ない。穢ないはきれい』は、シェイクスピアの四大悲劇『マクベス』の有名なセリフだ。
　え？
　これってロミオとジュリエットがベースになったお話じゃなかったの、って？
　そうである。
　そうであるが、マクベスも出てくるのである。
　マクベスが出るなら魔女も出る。わりと何でもありである。

　第七回マタタビック演劇フェスティバルの会場である星ヶ丘のSTARHILL Theater（スターヒル・シアター）のホールは満席。今年の目玉、即興☆ねこじま劇団『迷い猫座』による即興劇『舞い廻れ、ロミジュリたちよ！』が開幕して十分ほど経ったところだが、すでに観客たちは舞台上の空気に呑まれている。
　
　下手側の舞台袖には、監督、兼、マクベス役のフジコ先生（富士山権蔵）に指名を受けた野々ののこ、七夜あおい、あおいの弟の七夜ソラ、演劇部員ということで大道具小道具一切を任された桜井ラッセルの姿がある。

「いやーまさか、のっけからフジコ先生が、ロミオ、ジュリエット、マクベスの三役をやってのけるとは」

　開幕して十分間、ほぼ一人芝居状態。
　伝説の演劇集団『野良猫座』の座長を務めたというのは伊達ではなかった。
　右半分にロミオの化粧、左半分にジュリエットの化粧を施し、さらにマクベスの仮面を胸に下げたフジコ先生は、右を向き、左を向き、仮面を被りして、序幕の三役を見事に演じ分けたのである！
　圧巻の演技力に、観客たちは冒頭から大喝采。
　初代ロミオと初代ジュリエットが死に、胡乱路秘子演じる妖精女王ティターニアによってその魂が転生の旅に出て、それを妬んだマクベスがロミオとジュリエットを追っていくところまでを一気に演じたフジコ先生はいま、下手袖でパイプ椅子に座り、ののことあおいに化粧を落としてもらいながら、ラッセルに指示を出している。
「次はおとぎの国よ。準備はできてる？」
「はいっ。お城のカキワリ、ばっちりです！」
「学園やアラビア、海も必要だから準備しといてね」
「ハイィッ」
　忙しい。
　とんでもなく忙しい。
　しかもハチャメチャ。
　台本？　そんなのあってないようなものだ。
　何が起きるかわからない。
　それが即興劇の醍醐味である。

　舞台の上では、さっそく紫苑が暴走を始めている。
「マクベスよ、そなたは女の股から生まれた者には負けない……とかどうでもいいですねえ。ああ～、お腹が空きました」
　魔女はよいしょっと舞台中央にテーブルと椅子をふたつ持ってくると、ティーセットを並べ始める。
「私は予言を伝える魔女ですよ。あなたのお味方。一緒にお茶をいたしましょう、マクベス様」
　そう呼ばれてはマクベスも出ていかざるを得ない。
「なあに、魔女さん」
　くねくねとシナを作って出ていくフジコ先生、完全に素である。
　マクベスがテーブルに着くとバッとローブを脱ぎ捨てる紫苑。
　魔女、メイド服である！

「あら、マクベス様……今日のラテアートの模様……
これはロミオさん達がまた素敵な恋愛をしておられるようですわ」

　食べるのが大好きな紫苑らしく、ラテアートの模様やクッキーの盛り付けで予言する魔女という設定だ。
「なんてこと！」
　フジコ先生は紫苑の設定に乗った。
「早速邪魔しに行かなくちゃ！」
　マクベス立ち上がる。
　舞台暗転。
　ラッセル、走る。
（ひーっ。１０秒でおとぎの国に場面転換だ！）

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