【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！｜リアクション

【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！

●第十幕（前半）　舞踏会

（きっとこれ以降舞台に立つことがあったとしても、
君と、好きな子と一緒に舞台に立てる事ってきっとないと思うから）

　恥じらいつつも快諾してくれたあおいを大きな鏡の前に立たせての衣装合わせ。
　衣装を体に当ててみる。
　あまりに豪奢なドレスに、あおいはすこし不安な顔になる。
「私に出来るかな……」
　彰尋はあおいの肩を支え、勇気づける。
「今回は即興劇で型通りのジュリエットじゃないから、あおいさんの思う彼女でいいと思うよ」
　あおいは彰尋をそっと見上げた。
「うん……頑張る」

　第十幕は、魔女／巫部紫苑とマクベスのシーンから始まる。
　魔女／紫苑はくるりとティーカップにスプーンを差し回す。
　その声はこれまでになく重苦しい。
「バーナムの森が、動きます」
　バーナムの森。
　本家マクベスで、マクベスの首を取ることになるマクダフが軍勢を整えた森だ。
「え、ちょっと。バーナムの森が動かなければ私が負けることはないとかなんとか言ってなかった！？」
「あらあらあらあら」
「それでなくてもマクダフが『もう眠りはない！　マクベスは眠りを殺した』とか言うものだから、近頃眠れないっていうのに！」
「あらあらあらあら……」
　魔女／紫苑はゆっくり後退りながら退場する。
「ちょっとぅーーーー！！」

　マクベスの叫びを余韻に、暗転。
　入れ代わりに流れ出すのは、ワルツの音楽。

「ここは中世、ダンシネイン城。え？　マクベスが最期を迎えた城の名と同じ、ですか？　そんなこともあるかもしれませんね」

　ナレーションを務める妖精女王ティターニアこと胡乱路秘子が、んふふ、と笑う。

「お城では、戦いではなく、舞踏会が開かれています」

　ワルツに合わせて踊っているのは、これまでの幕に登場したロミオとジュリエットたちだ。
　それぞれの時代の衣装のまま、優雅に、ときにたどたどしく、ワルツのステップを踏んでいる。
　そんな舞踏会の輪から離れた場所。
　バルコニーの窓に、ジュリエット／あおいが登場する。
「なんだか胸騒ぎがするわ。何か起こりそうな胸騒ぎが。……あら、そこにいるのは？」
　問いかけに応え、ロミオ／彰尋が優雅に登場する。
「ロミオと申します。舞踏会の熱気に当てられて、この庭ですこし涼んでおりました。あなたは？」
「私はジュリエット」
「ジュリエット――なんと美しいお方。一目見て心奪われる。ああジュリエット、差し出がましいお願いとは存じますが、俺と踊ってはいただけませんか」
「……喜んで」
　ジュリエット／あおいはバルコニーを出て、ロミオ／彰尋の傍にやってくる。
　恭しく跪いて、手を差し出すロミオ／彰尋。
　ジュリエット／あおいはその手をとり、遠く聞こえるワルツのリズムに合わせて踊りだす。
「この胸のうちを告白してもよいですか、ジュリエット」
　しばらく踊ったあと、ロミオ／彰尋は甘い声で囁きかけた。
「なんでしょう」
「俺は恋に落ちてしまった。貴女のその目に射抜かれて、胸が苦しいのです」
　ジュリエット／あおいははっと息を呑み、青い瞳でロミオ／彰尋を見つめる――。