【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！｜リアクション

【演劇祭】舞い廻れ、ロミジュリたちよ！

●幕間　クライマックスを前に

　ステージでは、悪徳プロデューサー・マクベスと、ライバルのアイドルプロダクションのプロデューサー・マクダフの決闘が繰り広げられている。
　舞台袖に引っ込んできたあいおは、達成感から思わず夢乃に抱きついていた。
「夢乃！　最高でした！」
　夢乃はちょっと戸惑って、
「私、ちゃんとできていたでしょうか？」
　と聞いたが、それに対する答えは「もちろん！」以外にない。
「ありがとうございます。あいおちゃんと先生のおかげで素晴らしいお話を演じることができて満足です」
「私もです！」

　いよいよ残すところ、最後の一幕だ。
　舞台袖に入って来たのは、最後の幕のロミオを演じる鴻上彰尋である。
（ただ演劇祭を観に来ただけだったんだけど）
　フジコ先生に必要だと言われて指名されると、舞台に立ちたくなってしまう。
　父は能楽師で、祖父は舞台役者だったから、そういう血なのかもしれない。
（しかもフジコ先生と一緒の舞台に立てるなんて）
　彰尋は舞台人としてのフジコ先生を尊敬している。光栄だと思わずにはいられない。
（といってもどんなロミオを演じようか……あれ？）

「あおいさん」
　彰尋は見慣れたツインテールの背中に声をかける。
　七夜あおいは振り返った。
「あっ、彰尋くん！　もしかしてフジコ先生に指名された？」
「うん」
「だよね。彰尋くんなら絶対声かけられると思ったんだ」
　声を弾ませるあおいの後ろで、中学生くらいの男の子がぺこりと頭を下げる。
「あ、弟なの。ソラって言うんだ」
　七夜ソラは彰尋に会釈し、
「いつも姉がお世話になってます」
　と丁寧にあいさつをしてくれた。
「あ、こちらこそ。鴻上です、どうぞよろしく。で、あおいさんは、弟さんと裏方してたんだ？」
「そうなんだけどね、ちょいちょい舞台にも呼ばれたりして、なんだかんだで出ちゃったりしてたとこ」
　あはは、とあおいは笑う。
　彰尋は、顎に手を当てすこし考えていたが、やがて意を決して言った。
「ソラ君、お姉さんをお借りしていいかな？」
「え？　はあ、まあ……っていうかべつに俺の許可取らなくていいですけど」
「はは、ありがとう。一応ね。――あおいさん」
「なに？」
「あおいさん、俺のジュリエットとして舞台にでてくれないかな……？」