ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～鷹編～｜リアクション

ピョンっ！と跳ねて、新春☆初夢フェア２０２３！　～鷹編～

　爽やかに抜けるような青い空と、もこもこと重なり合う白い雲が夏の訪れを知らせる。
　ようやく梅雨のジメッとした空気を追いやったと思ったら、太陽は容赦なく照りつけてくれて、じわじわと体力を奪われる人もいるけれど。
「お、なっつかしー！」
　そんなことは桜井ラッセルには関係ないことで、ニャックの紙袋を下げて小さな公園へとやってきた。
　暑さに参って部屋でテレビゲームでもしているのか、別のボール遊びができる広い公園にでも行ったのか。子供たちを見かけない古びた遊具は、所々塗料が剥げ落ちていることも相まって、ちょっぴり侘しい。
　踏みならす人がおらず雑草は生い茂り、ますます近寄りがたくなってしまっているのだろうけれど、こういう所は小動物が身を隠すのにうってつけだったりもする。
　猫か、イタチか。何が飛び出すやらとわくわくしながら、ラッセルは遊具に飛び乗って――何の気なしに触れた鉄の部分が思いのほか熱いことに驚いた。
　もし気付かずに座っていたなら、大惨事だったかもしれない。
「うへー……じゃあ高台に登るのは諦めるとして。座れそうなとこっていうと」
　遊具のメイン部分へと続く木でできた緩やかな坂なら、座っても熱くないだろうか。そっと触れてみようとしゃがんだとき、幼いときの視点と重なってラッセルは思いだし笑いをする。
　あの時、この手すりの無い坂の横からよじ登ったり飛び降りたりするには、結構な勇気が必要な高さに思えた。
　もちろん今は、なんなく上り下りのできる高さなのだけど……あのとき出来なくて悔しい思いをしたことも、気がついたらできるようになっていること、というのは意外とたくさんあるのだろうか。
　リュックサックからスケッチブックと筆記具を取り出し、今まで書き留めた絵を眺める。自分が変われた切っ掛けの、ひとつだ。
（さぁて、今日は何を描くかな！）
　特別目的があってこの場所に来たわけではなく、なんとなく足が向いただけなので探し物があるでもない。ならまずは、紙袋の中身がしなびてしまう前に腹ごしらえをするべきか。
　汗だくになっている冷えたジュースを一口すすり、紙ナプキンを敷いてポテトを広げ。ハンバーガーにかぶりつけば、人に慣れた鳥はどこからか近寄ってくる。
「まだポテトは手を付けてないんだ、持ってかないでくれよ？」
　バンズのソースの染みていない部分を小さく契り投げてやれば、鳥は様子を見ながら近づいてくる。青い羽とオレンジ色の腹部が特徴的で、名前は意識したことがないのですぐに出てこない。
「青い鳥かぁ、なんかそんな話があったよな」
　あれは幸せになれるのだったか、探しに行くのだったか……鳥の出てくる物語が混ざってしまって、どれとは明言しにくいけれど、良いイメージのある鳥のはずだ。
　それなら、この鳥は知っているのかもしれない。どの道を選び、進むことで幸せが訪れるかを。
「……自分で見つけるから、答え合わせはもーちょい待ってな」

　まるで任せろと言わんばかりに片翼を掲げるから、ラッセルは思わず苦笑する。
「サンキュ！　じゃあついでに、もうちょっとそのポーズ頼むぜ」
　青い鳥を捕まえたら幸せになれるのだとしても。
　青い鳥を追いかければ幸せが約束されているのだとしても。
　手に入れたいのはそういう、何かを犠牲にしたり何かに従って決められた場所へ向かうことではなくて。怖くても間違っても、自分で思い描き続けたいと思う。
　真っ白なスケッチブックに間違った黒鉛が走っても、それを別の物に見立てて何かを描き足すことができる。
　真っ黒に塗りつぶしてしまっても、消しゴムを柔らかく触れたり力強く滑らすことで、鉛筆で描いていくのとは違うニュアンスが広がっていく。
　色んな道具の助けがいるかもしれない。使い方を知る必要があるかもしれない。だけど、そのページは無駄にならないし、スケッチブックに残された軌跡はかけがえのない物になるはずだから。

　……なんて、そんな大層な理由がいつも持ち歩いているスケッチブックにあるのかどうか。きっとラッセルに問うても、その答えは苦笑いでかわされてしまうことだろう。
　ただ彼が、いつでも芸術びよりであることは間違いなさそうだ。