そうだ、イタズラの練習をしよう｜リアクション

そうだ、イタズラの練習をしよう

　今日は弟妹が家で衣装作りに奮闘していて、賑やかだったから。
　いつもであれば助けを求められる前に世話を焼いたりするところだけど、昨日手詰まりになってしまった問題集をどうしても解いてしまいたい気持ちが勝って、鴻上彰尋は図書館へと赴いた。
（母さんが休みだし、危ないことはないと思うけど……）
　集中するために電源を切ってしまおうかと思ったスマホは、ちょっと心配になってマナーモードにして。帰ったら立派な衣装が出来上がっているのかなと思うと、負けられないなと問題集を開いた。
　……けれど、昨日の難問はなんてことない引っかけ問題だったらしく、落ち着いて読み直せば苦も無く解ける物で。おかげで、目安にしていた時間よりも早く目標が達成されてしまった。
（どうしようか）
　今のところ、家からヘルプの連絡は来ていない。
　もともと勉強する予定にしていた時間だし、先を進めてもいいのだけれど。ゆとりができたなら、勉強以外の時間に充てるのもいいだろうか。
　さしあたって必要な物は、自身の休息よりも――
（家族へのお菓子かな）
　今年は一緒に何かを作ったり、手伝ったりもできなさそうだけれど。気持ちだけでも一緒に楽しめればと、彰尋は洋菓子店や雑貨屋を覗いて見ることにした。
　今時期であれば、可愛いパッケージの焼き菓子やキャンディの詰め合わせもあるだろうけど、雑貨屋で手頃な小物があるなら詰め替えても喜ぶかもしれない。
（特に今年は、悪戯に構ってあげられないから、満足できる物にしないとな）
　今まで遊んであげられていたのに、進路が明確になって受験勉強に取り組み始めると、家事の手こそ抜かないものの弟妹に構う時間が少なくなった。
　蔑ろにしているわけではないけれど、申し訳ない気持ちもあって……そのお詫び、というわけでもないけど。
　なんというか、だんだん言い訳がましくなってしまって上手くいえないけれど、ようは家族とイベントごとを過ごすのは結構楽しみにしていたんだなと、気付いてしまった。
　それでも受験勉強をほっぽり出すわけにはいかなくて、折角染みついた勉強のペースを崩してしまうこともできなくて。迷った末に、こうしてお菓子を渡すくらいならと考えてみた。
　雑貨屋には、ペーパークラフトやプレゼントの包装紙、それから簡単な仮装小物なんかが並んでいて、そこには魔法使いのようなとんがり帽子を被った、カボチャのパペット人形もあった。
　そっと手にはめると、小物の試着用に置いてある小さな鏡を覗き込むようにして、彰尋は人形の良く見える角度を模索してみた。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞっ」
　両手をばたつかせてあげると、なかなかに悪戯っこそうな振る舞いができた気がする。
　これは２人も喜ぶのでは無いか――そう思って顔を上げると、鏡の向こう側……背の低い棚の反対側で、びっくりしたような七夜あおいがいるではないか。
「えっ、お菓子!?　待って、絶対何か持ってるからっ！」
「ああ、いや、違うんだ。これは」
　ちょっと具合を見るために動かしていただけで、決してあおいに気づいて何かをしたわけではないのだけど。
　それでも、あおいが大慌てでお菓子を探している様子は、ハロウィンにも見られるだろうか。
「私、今日はちょっとだけハロウィンのお菓子見に行くんだ。でも小物が並んでると楽しそうで引き込まれちゃって」
「そっか、俺も図書館の帰りで……２人にお土産を買っていこうと思ってたとこなんだ」
　少しだけ、ではあるけれど。２人は少し早めのハロウィンを満喫することにした。