そうだ、イタズラの練習をしよう｜リアクション

そうだ、イタズラの練習をしよう

　水上桜のハロウィンは少し早く、すでに夏休みから始まっていた。
　アクセサリー作りが得意である桜は、その腕を見込んで友人たちから声をかけられることも多い。ひとつのデザインを揃えで身につけるために用意するならば、友だちと集まって教えながら一緒に作る……なんてこともできるけれど。そうではないなら、ちょっと数を請けるには難しい。
　面立ちと当日の仮装に合わせたデザインだったり、仮装まではいかずともハロウィン色があってデートにも付けられるような物だったり。そんな凝った物はホイホイ作れるわけでもないので、隙間を縫ってはイメージを固めて素材集めにも奔走してきた。
　特に親しい友人からのリクエストだけならと制作数を絞っていたから、生徒会役員と部活と同好会の掛け持ちをしていたって――さらにそこへ自主練習も怠らず寝子島スポーツセンターへ足繁く通っていたって、間に合う算段だったのだけど。
　想定より制作が進まなかった時には、少しばかり動揺した。
　もしかして自分も気付かぬうちに、あの有沢茉奈のようになってしまっているのではないかと。
（……ないわ）
　彼氏がいないときは、合コンと聞けばすっ飛んで行って、彼氏ができれば聞き手がドン引くのもお構いなしに惚気る、将来の夢は港区女子で丸の内ＯＬなＪＫ17歳。あの茉奈と同レベルに恋愛に気をとられるなんて、あり得ない。
　色々と忙しくてペースが崩れただけ。そう言い聞かせて作業に励み、ようやく頼まれた分の最後を渡し終えた時にはホッとした。
「でさー、今日も彼氏がね、暗くなるの早いから友達と別れる時には連絡くれって。心配性で困るよね」
　きゃっきゃとテンション高く話す彼女に、それは過保護が過ぎないかとは言えなかった。
　スンっと真顔になってしまう自分に、恋愛脳になったわけではなかったことは安心したけれど、こういう温度差が発生するとき、上手い受け答えができなくて場をシラケさせてはいないだろうか。
「桜のアクセは？　彼とペアでも作ってるの？」
「ううん、頼まれたもので手一杯だったから、自分の分は今からかな」
　といっても、明確に誰かと出かける約束をしているわけでもないし、気分を盛り上げるだけならそう手の込んだ物を作らなくてもいいのだけど。
「そっかー。余裕あったらさ、このアクセのペアっぽいの頼もうかと思ったんだけど、難しそうだね」
「デート用に？　まあ同じ色でちょっとしたペンダントトップを作るとかなら……」
「でも、今から３つも無理じゃない？」
　さも当然とばかりに言ってのけるから、桜はなぜ３つも作らなければならないのかがわからなかった。
「桜もマタ工の彼とデートなんでしょ？　Ｗデートなら揃ってた方がらしいじゃん」
　いつ、そんなことが決まっただろうか。
　返答に詰まっていると、それを恥ずかしがっていると受け取った茉奈は、ニヤニヤしながら桜の顔を覗き込む。
「彼と上手くいってるんでしょ？　今度は桜の話を聞かせなさいよ」
「私は別に話すことは……」
　逐一何があったと話すようなことなんてないし進展もない。
　強いて言うなら、まあ上手く付き合えているんじゃないかなと思うくらいには、デートのような……自主練のような、甘くもなければ冷たくもない感じで数度顔を合わせているけれど。
「さては、何かあってデートに誘いづらいとか!?　何やっちゃったのよ」
「何もないってば、茉奈じゃないんだから」
「じゃあＷデートは問題ないよね？　ほら、後回しにせず誘った誘った！」
　断り切れぬまま決定事項となった予定にため息を吐きつつ、桜は彼とペアのアクセサリーを作ろうかと思案するくらいには、少し浮かれていた。