そうだ、イタズラの練習をしよう｜リアクション

そうだ、イタズラの練習をしよう

　街がハロウィンを盛り上げるように色づく頃、寝子高の図書室もほんの少し華やかになる。
　この時期になると、ハロウィンの起源について気になる人や、仮装にぴったりな海外のお化けを調べに来る人が増えるため、季節コーナーはハロウィン関連の書籍が並ぶのだけど。
　後輩が調べてくれた本のリストと用意してくれた飾りを見比べ、綾辻綾花は先輩として最終チェックを行っていた。
（うーん……もう少し、本を厳選したほうがいいかも）
　コーナーの大きさは限られているし、こういったイベントの時は普段本に触れない人も足を運んでくれる。本の圧迫感を控えめに、ポップの可愛らしさを活かすのが良さそうだ。
　表紙に大きくイラストや写真が描かれている本は面置きに。堅苦しそうなタイトルの本には、かぼちゃ型のポップで内容が伝わりやすく。
　見やすく取りやすい配置を心がけて綾花が設営していると、早川珪が様子を見にやってきた。
「順調かな？」
「はい。皆さんが積極的に準備をしてくれたので、私は仕上げるだけです」
　本のリストを見せ、絞り込んだ本に過不足がないかと確認を取ると、珪は安心したように笑う。
「さすがだね。コーナーも見渡しやすいし、本のバランスもいいと思うよ」
　先輩から、そして珪から教わったことが実になっている。綾花は嬉しく思いながら、図書室全体を見渡した。
　すっかり飾り付けも進んで、オレンジを中心としたカラフルな飾りがソワソワさせる。
「ハロウィンが近づいてくると、なんだかワクワクしてきます」
　去年は、細身のスーツを着こなした珪とダンスを踊った。いつもより大人な雰囲気にドキドキしっぱなしだったけど、彼のエスコートのおかげで舞踏会に溶け込むことができて、物腰も含めてとても格好良かった。
「……珪先生、今年のハロウィンの予定はあるんですか？」
　まだ彼の詳しいカクテルにはノンアルコールでしか付き合えないけれど。
　高校生活最後のハロウィンとして、今だからこその楽しい思い出になればいいなと願う。
「今のところは、ないんだけど……ほら、みんな突拍子も無いことが好きだから」
　いつも発想が柔軟な人が近くにいて、巻き込まれたら辞退できそうにもない。そう苦笑してみせる珪は、あまり困ってもなさそうだ。
「その時は、一緒に巻き込まれてもいいですか？」
「はは、そうだね。そのほうが楽しいんじゃないかな」
　綾花の手元に置いてある、飾りの入った箱に手を伸ばしながら。珪は声を潜めてこう続ける。

　――綾辻さんが一緒なら

　とてもとても小さな声だから、気のせいだったかもしれない。
　それでも、どことなく悪戯に笑われた気がして、綾花はぱちくりと瞬き返す。
「……飾り付け、早く終わりそうだねって」
「えっ、あ……そ、そうですね！　２人ならきっと」
　でもこれは、本当に飾り付けの話？
　わざわざ小さな声で言うくらいなのだから、もしかして一緒に巻き込まれたいという話？
　彼の悪戯する姿なんて、想像も出来なかったけれど。こんなにドキドキさせる物なのだとしたら――次の飾りを手に取った綾花は、精一杯なんでもないフリをして微笑んで見せた。
「珪先生の悪戯、楽しみだからお菓子作らないでおこうかな」
　すると今度は珪がぱちくりと瞬き返す番。
　悪戯を期待されてほくそ笑むような人ではないけれど、彼は少し寂しく微笑んで見せるから、綾花は先の言葉を撤回しそうになってしまう。
「残念だな。綾辻さんのお菓子、楽しみにしていたのに」
　きっとお菓子は用意してしまうだろう。
　それでも鞄の奥底に忍ばせて……ギリギリまで、駆け引きが出来ますように。

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