そうだ、イタズラの練習をしよう｜リアクション

そうだ、イタズラの練習をしよう

　さて、問題です。
　気になる女の子から一緒に出かけたいと誘われたら、どう対応するのが正解か。
（悩むまでもねぇ、男なら一択……っ！）
　勢い余って本音が口から飛び出しそうになるのを、京極花音はすんでのところで飲み込んだ。
　飲み込みすぎて、なんと返せばいいのかわからず押し黙ってしまった長身強面男性に、小柄な暁月静は物怖じせず微笑みかける。
「可愛い雑貨選びなら任せてください！」
　本来であれば、店の所用に常連客の手を煩わせるなどもってのほか。ただ、意欲満面な静の顔がそれを上回る勢いで可愛かったのだ、花音の中でお断りという選択肢は一瞬にして消し飛んだ。
「じゃあ、アウトレットの方にでも……」
　可愛い雑貨屋があって、なんだったらスイーツもあって、あわよくば観覧車なんてデートっぽいアトラクションもあるシーサイドタウンのアウトレットなら、きっと彼女も喜ぶに違いない。
「あの、待って！」
　これからの ~~お使い~~ デートに浮かれていた花音は、突如背後から腕を捕まれて動揺を隠せなかった。
　浮かれて歩幅を考えていなかっただろうか。いや、男女が２人並んで歩くなら、手を繋いでエスコートすべきなのかもしれない。
（この流れなら手を、つ、繋いでも）
「アウトレット、あっちですよ」
　くすくすと笑う静は、「猫ちゃんにでも気を取られてましたか？」なんて冗談めかしているけれど、そうであったならどれほど良かったか。
「……まあ、そんなとこッス」
　まだ名前も知らぬ今は、恥ずかしい一面は隠しておきたい。方向音痴であることがバレないように、花音は雑貨屋で目移りしないように気をつけようと固く誓った。

　壁飾りに置物、それから値札に使えそうなポップなんかを見てまわったことで、可愛い雑貨を目の前にイキイキとする静の好みを知れた。時折ハロウィン限定のスイーツに目を奪われていることから、甘い物も好きなんだろうなということも、わかった。
（なのに……）
　花音は彼女の名前を聞き出すことは愚か、相づちを打つばかりで弾んだ話を提供することなど出来ず、途方に暮れていた。
　このままでは、本当に店の買い物を付き合って貰っただけになってしまう。だからといって、軟派な物言いをして顰蹙を買っては本末転倒だ。店員と常連客の間柄で、不自然なく近寄れる距離というのは難しい。
　スムーズに必要な物を買いそろえられたから、時間に余裕はある。歩き通しだし、休憩や買い物に付き合ってくれたお礼にとお店に誘うくらいは大丈夫だと思う自分と、何か持ち帰りに適したお菓子でも買って済ませるべきかと思う自分とがせめぎ合っている。
「店員さんはどっちがいいと思いますか？」
「俺はお茶に誘いたいッスね」
　振り返った静と目が合って、声に出ていたことに気付いた。
　彼女が見ていたのは、カフェの店頭で持ち帰りにと販売していたスイーツたちであって、一緒にお茶をするなんて選択肢はなかったのかもしれないけれど、言ってしまった言葉は取り消せない。
「わあ、甘い物大丈夫なんですか？　じゃあ入りましょう！」
　ひょいと席を覗いて見て、混んでいるのでボードに名前を書くのかなと静は順番待ちを確認する。
　もし、そこに彼女が名前を書いたなら。
（名前を話題にするチャンスだっ！）
　だからスタッフよ、すぐに呼びに来るな。そんな気持ちを胸にスタッフへ念を飛ばしたのだけど――鋭い眼光に慄かれた結果、スピーディに席は用意されてしまったのだった。

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