そうだ、イタズラの練習をしよう｜リアクション

そうだ、イタズラの練習をしよう

　地域交流の一環で、ハロウィンイベントに参加することにした倉前七瀬は、段ボール箱を抱えてウキウキと歩いていた。
　今日の目的は、地域で協力してくれる方から仮装に使えそうな物を譲って頂き、大学のホールに集めること。そのあとはバイトの予定もないので、仕分けを手伝ってもいいだろうか。
　でも、どうせなら。
（本場の人にイメージを聞いてみたかですね）
　日本では仮装をしてお菓子を貰いつつ騒ぐイベントとなりつつあるが、英語圏ではどうだろうか。諸説あるらしいことも本を読んで知ってはいるが、具体的に体験したことがあるわけではないので、海外のハロウィン事情についてはわからない。
　それを知っていそうな人には、心当たりがあるけれど。
　イギリス育ちのウォルター・Bであれば、ハロウィンもよく知っているだろう。日本にも長く住んでいるようだし、母国とこちらの違いについても気になっているかもしれない。

「で、わざわざ訪ねてきたの？」
「ちょうど近くまで来たとですから」
　放課後の寝子高にて、七瀬はウォルターを捕まえることに成功した。
　部活動の顧問も複数しているし、急ぎ帰ることはないだろうと予想しての訪問だったが、職員玄関を覗いていなければ、すれ違っていたかもしれない。
　近くの公園で荷物を下ろし、経緯をかいつまんで説明した七瀬は、ハロウィンについて相談できればとお願いしてみるのだけど、ウォルターは不思議そうに聞き返した。
「倉前は何をしたいの？」
「そうですねぇ、やっぱり仮装でしょうか。先生も、子供の頃はしましたか？」
「しないこともなかったけど、アメリカ式の楽しみ方は俗世的だなんて渋い顔をする人も地域にはいてねぇ」
　元を辿れば宗教色の強い物だからこそ、土地柄や年代にとっては受け入れられずにいることもある。そんなしがらみのない日本であればこそ、いいとこ取りをして楽しむ姿に羨ましく思うらしい。
「なるほど、仮装にも良い悪いがあるんですねぇ……」
「ここは日本だし、そう難しく考え込むことはないんじゃない？　そんな突飛な格好も君ならしないでしょ」
「僕ですか？　インパクトのある物にはしたいんですが」
　段ボール箱を探り、七瀬が取り出したのは先ほどもらい受けたシーツ。裾を調整しながら、手をもぞもぞさせて今はのっぺらぼうのシーツお化けとなってみせる。
「どうですか、似合います？」
「うん、気の抜けた顔が描いていそうってところまでは想像できたかな」
　クスクスと笑う顔が聞こえて、これであれば地域の人を怖がらすことなく楽しんで貰えると安心した七瀬は、ウォルターのアドバイス……とはちょっと違うかも知れないが、彼が思い浮かんだという気の抜けた顔を描いてみようと心に決める。
　あとは、仮装をしたならこの一言。
「Trick or Treat」
　ちょっと脅かすように手をバタバタしながら、ウォルターにお菓子を要求する。突然のことでガムなど持ち歩いていただろうかとポケットを探る様子に、七瀬はふっふっふと堪えられない笑みをシーツの内側で浮かべていた。
「お菓子がなかったら、悪戯ですよ……って、何も考えてませんでした！」
「言われたら言い返されるだろうし、倉前も悪戯されるかもねぇ」
「お菓子も用意しとかんとですね!?　それは用意できますが、悪戯……」
　真剣に悩み始めた倉前に、ポケットから出てきた飴でも渡そうかと思っていたウォルターは静かにそれを元に戻した。
「……決めましたっ！　おりゃおりゃあ」
　気の抜けるような雄叫びと共に抱きついてきた七瀬は、くすぐりの刑を実行するのだけれど。
　その手つきより何より、雄叫びが面白くてウォルターの笑いは止まらなかった。

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