暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号

　コトコは探偵の勘を一生懸命働かせた。
「んと、んと……こえ！」
　数冊ある中からピンときた交流ノートの、そのまたピンときたコメントはラッセルに手伝ってもらいながら読んで、いくつかはスケッチブックへ一緒に書き写したりして。何か閃かないかと、また暗号文を２人で眺めてみるのだけれど……。
「どの辺りが、季節限定メニューなんだ？」
「あきー、あきのたべもにょ、なんれすかねー？」
　旬の物という認識はまだコトコには難しいけれど、この秋に美味しい物はたくさん食べた。
「さんまさんー、なしー、……こんろ、しょーがっこーれさつまーもほってくるんれす！」
「いいじゃん！　さつまいもは焼いても煮ても……きんとんとか、お菓子にしても美味いよな」
「う？　さつまーも、おかしれきるれすか？」
　それはどんなお菓子だろう。コトコはキョロキョロと周囲を見渡した。
　さつまいもは紫色だと知っている。その内側はほくほくとした黄金色で、とっても甘いのだ。お菓子になったら、もっともっと美味しくなるのだろうか。
「ああ、おかしにもご飯にもなるぞ！　ほら、あそこにあるスイートポテトなんか……」
　丁度近くの席に運ばれてきたそれを指さしたラッセルは、ハッと気付く。そんな名前、メニューのどこにもなかったし、秋の限定に相応しいのではないか。
　とはいえ、この数あるひらがなの何かが『スイートポテト』になるだろうという予想はできても、どれがそうかまでは辿り着いてない。
　頭を抱える２人に聞こえるよう、文也はコトコの父へ声をかけた。
「おや、そこの旦那は良い物をお持ちのようだ」
　ガジェットケースを一瞥してにっこり微笑めば、コトコの父は仕事柄手放せないそれに苦笑する。
　家族水入らずの時くらい置いてこようとも思ったが、持ち歩くことが習慣化してしまった物はなかなか難しい――そう言ってケースをひと撫でする仕草に、文也はわざとらしく手を叩く。
「いやぁ、相棒のようでいいじゃないか。某もそういった物は使うけれども、まだまだうっかり『かな入力』にすることが多くてね」
　お恥ずかしいと声高に話す文也が、妙に芝居めいている。その仕草にハッとしたコトコの父は、すぐさまノートパソコンを取り出し起動させた。
「う？　とーと、おしごとれす？」
　とたとたと父に走り寄るコトコを見て、ラッセルも挨拶にと近寄る。そうして暗号に頭を悩ませていた２人が揃ったところで文也はサービスの豆菓子をノートパソコンの近くに置いてやった。
「答えを解くカギは案外近くにあって見えるものだよ」
　近くにある。
　そう促されて視線を集めるのは、ノートパソコンの……。
「こえ！　ひらがなかいてるれす！」
　小さな名探偵の発見に小さく笑うと、文也は限定メニューの残りを確認しに戻った。

　どこかで謎が解けたのか、盛大な歓声が上がって修とあおいは顔を見合わせる。
「やったね、これは食べなきゃ損だよ」
　スイートポテトケーキの断面を見せながら、あおいは少し興奮気味に語る。
「さつまいもが違うのかな？　他で食べるのより黄色が濃くてね、味も見た目通りなの！　何を入れたらこうなるんだろう」
「作り方は調べようがあるけど、再現となると……種類に詳しくなるしかなさそうだな」
　今度食べ比べてみようかと誘うなら、何にしよう。
　林檎か、それとも。秋は美味しいものがいっぱいだ。