暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号

　やっぱり、じゅんの暗号への興味は最後までもたなくて、さゆるが謎を解くことにはなったのだけど。
　２人の前には無事に季節限定メニューが運ばれてきた。
「でもさゆる、あんな暗号よく解いたわね？」
　パンプキンパイにフォークを入れ、そのサクサクとした音に目を細める。最初からメニューがわかっていたわけではないから、解けたところで好みのメニューがあるとも限らないのが少し心配だった。
　それでも、じゅんは嬉しそうに一口目を頬張っている。
「……じゅんがいたから、かな」
　想定外の言葉だったのか、「何かしたっけ？」と言いたげな顔に、モンブランも一口差し出してみる。
　いつも通り適当なことを言ってくるから考えは纏まらないし、協力してもらったか邪魔されたかで言えば、まあ……決して協力的だとはお世辞にも言えないけど。
「ノーパソで英文もどきの文章送った話。あれで閃いたの」
　それの何が役だったのかわからないまま、じゅんは差し出されたモンブランも食べてみる。お洒落なお店のように洋酒が効いてるでもなく、どことなく素朴な味わいもするケーキだ。
　デートの途中、一緒に……とは言いがたいけど、２人で謎を解いて頼んだと思えば、美味しく感じるのも頷ける。
「あたしはさ、さゆるの字が綺麗でびっくりしたんだよね」
　適当な紙に書いただけの走り書きを指さして、「これとかさ」なんて楽しそうに話していて。暗号に飽きていたわけではなかったことにホッとする。
　もし――始めから真面目に解くさゆるを揶揄いたいがために誘っていたのだとしたら？
（まさか、ね）
　これがじゅんにとっての『遊び方』であるならどうしようもないなと、さゆるは小さく笑った。

　閃きのタイミングは連鎖でもするのか。
　彰尋がパンプキンパイを頼んで、七瀬がスイートポテトケーキを頼んで。
「あっはっは、盛況でいいことだ。すぐにお持ちするから待っておいで」
　慌ただしく店内を駆け回る文也が、真白の元に先ほど注文されたパンプキンパイを届ける。
「解読おめでとう！」
「ありがとう！　私にかかれば、暗号なんてお手の物だけど」
　得意げに笑ってみせる真白に賞賛の声を送り、次はもっと難解にしないとねと笑いながらオーダーを取りつつキッチンへ戻っていく。
（これが解読のご褒美……）
　特別クリームがお洒落に添えてあるでもなく、ＳＮＳでとても映えるかと言われれば決してそうではないけれど。
　お店からの挑戦状に勝って、暗号を解いた者だけが辿り着けるスイーツ。
「うーん、美味しい！」
　余計な甘みでなく、カボチャ自体の甘みをサックサクの生地が包んでいて、いくらでも食べられそうだ。
　紅茶でホッと一息をつきながら、真白は改めて店内を見回してみる。
（雰囲気も悪くないし……来てみてよかったぁ）

　暗号を解読した達成感、限定メニューを前にした時の綻んだ顔。
　どちらも折角作った物だ、挑戦してくれる者がいて食べてくれる者が居ることを、文也は「ありがたいね」と独り呟いた。
　文字を追って、物語に引き込まれて一喜一憂する顔を盗み見るのも悪くは無いけれど、談笑で賑わう店内も喫茶店としては悪くない。
　こうして喜んだ顔を見られると、早くも次が見たくなる。
「……ふむ。次はどんな暗号にしようか」

　数字、ひらがなの羅列と来たならば、次はアルファベットでも羅列してみようか。それとも文字ではなく絵にしてみようか？
　あまり手の込んだ暗号にして匙を投げられても困るし、塩梅は悩むのだろうけど。
「まあ、また思いつくかな」
　それはお宝を探しているときのように、ふと降ってくるように閃くだろう。
　でも暗号にはやっぱり、ご褒美がつきものだろうか。
　今度はできるなら――あまり練習の必要ない、手軽に豪華さを演出できる物ならありがたいと苦笑した。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

思い思いに暗号を解いて下さって嬉しいです。
中には、びっくりする解き方の方もいて、自分でもう一度解き直しました。

寝子島はこれから、ゆったりとした秋が続くようですね。
本に囲まれたり、美味しいものを食べたり、大切な方とまったりして頂けたなら嬉しいです。

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お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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