暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号

「かいけつは、とーにおまかせれす！」
　前回の暗号とは違うけれど、解くために店内を動き回るのは同じはずだ。コトコは心配をする両親をよそに、とてとてとテーブルを見て回り、大人たちの注文しているものを観察し始めた。
　けれどやっぱり今回は、大人も子供も等しく悩んでいる……これでは、誰のテーブルを見て良いのかわからない。
「とー、かんじはむずかしーれす……」
　交流ノートに何か書いてあるかも知れないが、１人では読むのも一苦労だ。キョロキョロと周囲を見回し、自分にできそうなことを考える。あの時はたくさんのお兄さんとお姉さんが助けてくれた。
　あとは何をやっただろう。何が出来ただろう。以前は探偵として、いっぱい情報を集めたはずなのに。
「どうした、探し物か？」
　困ったようなコトコに声をかけたのはラッセルだった。
　目当ての本がある棚がわからないのか、座席がわからなくなってしまったのか。そんなところだろう……と、思っていたラッセルの虚を突き、コトコはあの隠しメニューに挑んでいるんだという。
「ひんと！　いっしょ、さがしてくらさい！」
　それなら協力は難しいのではないだろうか。自分は一度匙を投げようとした側で、なんだったら解けない人に向けた特別ヒントの公開待ちだ。
　けれど、ここで「できない」と言ってしまっては、この子はどんな顔をするだろう。
「こえ！　いつものにないない、てーぶゆにあるかさがすれす！」
「いつものにないないを探す……？　そうか、それが限定メニューか！」
　それから、それから。やりたいことを懸命に伝えてくるコトコは、色々と教えてくれる。交流ノートはヒントもあるけどダメなことも書いてあったとか、みんなで見た物を教えあうと解決したんだとか。小さな探偵の先輩は、とてもキラキラした瞳で話しだした。

　交流ノートには、同じ暗号を使ったと思しきひらがなの羅列で隠しメニューや今回の謎についての感想や、ヒントになりそうなメッセージが書かれているけれど。まだ解けていない柚春にはどれが本当でどれが嘘なのかは見抜けない。
　このままでは、ウォルターが柚春へ注文を頼んだ時と同じように素直に騙されてくれるのかもしれないが、何度も笑っては機嫌を損ねてしまうだろう。
　そう思うと同時にウォルターは、自分以外の人の言動で慌てふためく柚春を想像し、それもなんだか――可愛い生徒が粉をかけられているようで面白くないから、少しばかり手伝おうかと様子を窺う。
「季節限定……６文字の季節、だと……season？」
「確かにそれも季節だけど、四季で表現したら何文字かなぁ？」
「今なら秋だからAutumn……あっ、こっちも６文字だ。でもなんでひらがなを英語に」
　はたと気付いて柚春は暗号を見る。『ちなかなもみ』がAutumnなのだとすれば、『ち』を『Ａ』に置き換えるのだとすれば。
　急いでスマホを取り出し、横持ちにする。適当に文字を打てる画面にして呼び出したキーボードは、思っていた物と少しだけ違った。
「書いてない……でも、一番端にある文字でよく見てたから覚えてる」
　これはきっと、パソコンのキーボード配列ではなかろうか。それでも、店内で自由に使える端末はない。画像を検索するのはルール違反かも。
「店長さん、１度なら画像検索をして構わないかな？」
「おや、心当たりが見つかったのかい？　他のお客様に見せびらかすとかでなければ構わないよ」
　先ほどは元気な注文をしていた柚春が答えに近づいた。一時はどうなることかと思った文也も、検索したいものがあるなら大丈夫だろうと安堵する。
「ありがとうございます！　ふふ、楽しみだねвор」
　テーブルにちょこんと乗せたカプセルギアに微笑みかけて検索をする柚春は、まるでプレゼントの包装紙を解くようにワクワクと、そしてドキドキとしながら画像を拡大して見比べている。
「どう、今度は注文できそう？」
「任せてよ！　ウォルターさんの食べたい物、ちゃんと頼んでみせるからね」