暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　秋だけの美味しいヒミツの暗号

　あおいの睨めっこが一段落して、修は交流ノートで情報を探そうと提案した。
　暗号を用いてメッセージを送り合っている様子も見られるが、ヒントになりそうな物……とページを捲ると、感謝の言葉に囲まれているコメントがある。
「この、最初の６文字は『季節』限定っていうのはどうかな？」
「こっちには、英語かローマ字かわかんないって書いてあるけど……季節をどうするんだろう？」
　季節をそのまま読めば、ひらがな３文字。ローマ字に変えれば６文字で書けなくもないが７文字にもなる。
　では英語か。季節を英語に、限定メニューの紹介だから今の季節を英語にして。
「……やっぱりおかしいよ。例えばこのヒントがAutumnって文字になるってことだとして」
　スマホを取り出したあおいは、キーボードを指さして日本語と英数字を切り替える。
　ひらがなとアルファベットが対応する物――あおいはそれで『キーボード』だということまでは気付いた。だが、彼女が慣れ親しんでいるキーボードは、スマホのフリック入力だ。
「ね？　『ち』なら『Ｈ』になると思うんだ。『Ａ』にもseasonの『Ｓ』にもならないよ」
「確かに、そのキーボードじゃ難しそうだ。じゃあ俺のだとどうだろう？」
　意図が理解できないあおいは、ただ瞬いて修を見る。機種によって、キーボードの配置が違うのだろうか？　そんなことになったら、機種変更の度に覚えなければいけなくて混乱してしまう。
「ちょうど、写真もまとめてきてるからさ。大きい画面で見て欲しくてタブレットを持ってきているんだ」
「タブレット、の…………あっ！　ああー！」
　確かにあった。ああいう横長の、パソコンなどに使うキーボードにも、確かにひらがなとアルファベットがセットになっている。
　配置などはまるで覚えていないあおいでも、もしかしたらという期待に目を輝かせて、急いで座席まで戻ろうと笑うのだった。

　交流ノートでヒントを手に入れた綾花は、これだと思う物をノートに書き写し席に戻った。
「最初の６文字が季節ってことは、季節限定……今の季節を指すならAutumnでしょうか」
　それを『ちなかなもみ』と照らし合わせると、『Ｕ』と『な』の位置が重なる。つまり、ひらがな単独でアルファベットへ対応しているということだ。
　これなら、と同じ要領で６文字のひらがなを埋めていけば、『とちかとなもちにもら』が『とＡＴとＵＭＡにＭら』という虫食いになった。
　そうして大前提である『季節限定メニュー』であることを当てはめる。秋の定番といえば、栗、カボチャそれから。
「さ、つ……ま……！」
　思わず漏れそうな声を我慢して、綾花はペンを滑らせる。『と』に『Ｓ』を、『に』に『Ｉ』を。ここまでくれば、珪もこの仮説が確信へと変わる。
「ここにＳが入るなら、それじゃあ……」
　同じ音が繰り返される『とちのな』も、今や『ＳＡのＵ』まで埋まった。メニューに関わりそうな言葉と言えば――『ＳＡＫＵＳＡＫＵ』だ！
　走り出したペンは止まらない。開いたアルファベットを当てはめるたびに、次の言葉が連想できる。
（これは……あっ！　メニューの説明はローマ字で、メニューは英語なんですね）
　解けていたローマ字読みに引っかかるところだったけれど、説明が『か』から始まる秋の美味しい物を使った『せＵＭせＫＩＮ　せＩい』はきっと。
「珪先生、これ……っ」
「そうか、これは……」
　お互いに閃いて、顔を覗き込むのは同時だった。
　ずっとメニューを書き写した１冊のノートを、２人で肩を寄せ合って見ていたのも気付かないくらい熱中していて。思わずと上げた顔は、あの夏のように近い所にあった。
　……今日は、ぶつからなかったけれど。場所を考えると、それが良かったのか残念だったのかはわからない。