あおぞら古本市と読書の秋｜リアクション

あおぞら古本市と読書の秋

　土曜日。
　鴻上彰尋は、自分の住むシーサイドタウンで『あおぞら古本市』があると聞きました。
「家の買い出し前に覗きに行こう」
　舞台役者をしていた祖父の影響で演劇に興味を持った彰尋は、こういう所でしか出会えないような本を探したいと思いました。
（たとえば、古い演劇の雑誌とか、寝子島で出会いにくい海外の書籍とか、祖父の台本にあったお話の元になった本とか）

　やってきた通りの両脇には露店だけでなく、椅子やテーブルまであります。
　何人かの人が思い思いにそこで本を読んだり何か食べたりしているようでした。
「古い本で手に入りにくいのもあったから、こういう所だったら、もしかしたら巡り合えるかもしれないな」
　多分そういう書籍は固まってありそうだ、と踏んだ彰尋は、マンガや小説などではなく特定の露店を探すことにしたのでした。
　
　やがて、シェイクスピアの本が並んだ露店を見つけました。
　他にも演劇関係の本や雑誌が揃っているようです。
　よさそうな店だ、とじっくり探している彰尋にご老人が言いました。
「趣味で集めていてね。ゆっくり見て行ってください」
「はい」
　しばらく考えて、ハムレットの主演男優のインタビューが載っている雑誌と、読んでみたいと思ったバーナード・ショウの戯曲の本を手に取りました。
「これ、ください」
（早速雑誌を見てみたいな）
　と思った彰尋の心を読んだようにご老人は言いました。
「はいよ。そこのソファー使っていいよ。近くの店に食べ物も売ってる」
「ありがとうございます」

　せっかくだから、と彰尋は近くの店で食べ物を買うことにしました。
（一度こういうのをやってみたかったからちょっと嬉しいな）
「バゲットサンドとコーヒーをテイクアウトで」
　注文を済ませて目を外に向けると、思いがけず七夜あおいがこちらへ歩いてくるのが見えました。
「あおいさん、偶然だね」
「彰尋くん？　こんにちは」
　話しかけた彰尋に、あおいは目を丸くし、それから笑顔になりました。
「もしかしてあおいさんも古本市に？」
「古本市なの？　人がたくさん集まってるから、なにをやってるのか見に来てみたの」
「うん、いろんな本を見かけたり、雑誌に漫画とか絵本とかもあって楽しいよ」
「そうなんだ。ちょっと覗いてみようかな」
「あとは……いい天気だし座って本を眺めながら軽食を楽しむのもいいんじゃないかなって」
「それ、いいね。私もちょうど何か食べたいと思っていたの」
「よかったら、一緒にどうかな」

　しばらくの後、軽食を手に彰尋とあおいは並んで古本市のソファに座っていました。
「ほんとにたくさん本があるね。一日じゃ回り切れないかも。彰尋くんは何を買ったの？」
「演劇の雑誌と本だよ。雑誌はハムレットの特集があってね……」
　あおいと共に青空の下、美味しいバゲットサンドを食べながら本を眺めるのは、最高の時間でした。

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