晩メシは宇宙だ。｜リアクション

晩メシは宇宙だ。

　ある秋の日に。
「「ラーメン！」」
　小腹が減ったな、何か食べる？　との問いにせーので答えたメニューが見事ハモったのは、付き合いも深くなってきたからだろうか。
　授業終わりの図書室、いつものように合流しともに宿題をこなした八神修と七夜あおいは今、ラーメン屋を探している。時刻は夕暮れ時だが、まだ日が沈みきるほどでではない、けだるい放課後のひと時だった。
「この時間、妙に腹が減るんだよな。寮の夕食まで持ちそうにないよ」
「私も。今日は体育のマラソンもあって、ハードだったしね」
　きゅるると切なく鳴ったお腹をおさえて修がおどけてみせると、あおいは可笑しそうにくすくす笑った。
　道端に鶏そば専門店『ラァ麺やまもと』とのそそる看板を見かけ、迷うことなくのれんをくぐる。あおいは前から気になっていた店だという。
「修くん、何にする？」
「俺はやっぱり、鶏そばかな」
「じゃあ私は、つけそばにしようっと。少しずつシェアしようよ」
「賛成」
　鶏そばとつけそば、取り分け用の小鉢を頼んでしばし待つ。
　その間もあおいと話が弾む。
「勉強は捗ってる？　もうすぐ模擬試験もあるよな」
「ぼちぼち、かなあ。ほら、私、九州の福祉学校を受けるでしょ？　そっちの準備もしなきゃだから、忙しくて」
　もちろん、学校の勉強もおろそかにするつもりはないのだろう。忙しいといいながら、あおいの表情ににじむ充実感に、なぜだか修までもが満たされる気がする。
「あ。そういえば修くんって、なにか欲しいものとかある？」
「え？　そうだな。もうすぐ冬だから、普段使い用に手袋とか、帽子とか。どうして？」
「ん～ん？　なんとなく気になっただけ♪」
　そっけなくもしっかり希望を伝える修は、自身の誕生日が近いこととの関連について考えずにいられない。もしかして、何か用意してくれるのだろうか。あおいに誕生日プレゼントをもらえるなら、こんなにも嬉しいことはない。
　実際この数日の後に、あおいは本当に手袋をプレゼントしてくれるのだが、今の修はまだ期待に胸をふくらませるばかりだ。
　そうして他愛のない会話に花を咲かせるうち、注文の品が届く。
「「いただきます」」
　修の頼んだ鶏そばは、ラァ麺やまもとの看板メニュー。すっきりと澄んだ丸鶏ベースのスープは見た目こそシンプルながら、魚介出汁も合わせた奥深い香りをかもしだしている。麺はもちもちのストレート。さっそくすすると、
「ああ。うまいな……飾らないうまさ、こういうのがいいんだよな」
「へええ、美味しそう！　こっちのつけそばも、美味しいよ～？」
　小鉢に分けてもらって、麺をすくいつけ汁へくぐらせる。香ばしく、ガツンとパンチのきいたスープが麺にからんで、普通のラーメンとはまた違った味わいだ。
「なあ、あおい」
「うん？　ろうひはの、しゅうふん」
　ちゅるると麺をすするあおいを見つめて、ふと修は言ってみた。
「卒業したら……少し、離れてしまうかもしれないけれど。またこうして一緒に、うまいものでも食べよう」
「うん、もちろん♪」
　変わるところのない彼女の天真爛漫に、修は安堵し、鶏そばを余すことなく楽しんだ。

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