晩メシは宇宙だ。｜リアクション

晩メシは宇宙だ。

　学校帰り、夕飯の買い出し中の巫部紫苑。
　スーパーマーケットの総菜売り場に見かけたよれよれスーツのサラリーマンを見送り、彼女もまた晩メシの宇宙へ挑む。
「ふむふむ。今日の特売はコロッケですか。それじゃとりあえず、全種類を５個ずつ買っていきましょう♪」
　宇宙というか、彼女の晩メシはビッグバンであった。なにしろ買い物カゴへ放り込んだそれらを、紫苑はひとりで食べるのである。
　既にカゴの中はコロッケの山が積み上がっているが、その程度で彼女は終わらない。
「とんかつ、アジフライ、えび天盛り合わせも入れて。サバの塩焼きとほっけの煮付け、どっちにしましょうか……両方買っちゃいましょう♪　あら、鶏の唐揚げもいいですね。お野菜も欲しいですし、インゲンの和え物にゴボウサラダ、茄子の揚げびたしと切り干し大根も。あっ、おでんもいいですね☆」
　さらなる注釈を加えねばなるまいが、彼女はこれらを今夜中に平らげるのである。晩メシ以前に彼女の胃袋が宇宙だ。
「う～ん。ちょっと買いすぎでしょうか？　このくらいにしておきましょう」
　などと殊勝なことを言うが、それはあくまで「お惣菜はこのくらいに」という意味であり、紫苑はその足で精肉売り場へ向かう。
「さて、今日はなにを作りましょうかね～」
　惣菜を１０人前は買いこんだ後に、お得な豚バラ肉やら霜降りの牛肉などを物色し始める。無論その後は魚売り場を巡るし、合わせて野菜も買いこむし、デザートのフルーツも買うのである。
「こうしてお買い物をしながら作りたいお料理を考えるのって、本当に楽しいんですよねえ」
　あっけらかんと言ってのけて、カートもカゴも満載になったところでレジへ向かい、会計を済ませた。応対したパートのおばちゃんも、それらがまさか一人分の食材とは夢にも思うまい。
　自宅へ戻ると、てきぱきと料理を開始する。レシピも手順も全て頭に入っているから、とにかく調理するのみだ。なお並行して、惣菜のあたためもしてゆく。常にレンジをフル稼働していないと、料理の完成までに間に合わない。
　フライパンでお肉をいため、グリルでお魚を焼き、まないたの上にはキャベツの千切りが瞬く間に誕生する。ただ食べるのみではなく、それが高じて自ら料理もこなしてしまうのが紫苑のすごいところだ。
　目まぐるしく動き、かかった調理時間は３０分ほどだろうか。食卓の上には買い込んだ山盛りの惣菜たちに加えて、豚しょうが焼きにひと口サイコロステーキ、鮭の塩焼き、いかめし、チャーハンに麻婆豆腐、シーフードサラダにマカロニサラダと、なんとも無節操ながら彩鮮やかで多種多様な料理が、たっぷり５人分は乗っていた。
　繰り返すが１食分だし、紫苑ひとりで食べるのである。
「いただきます。んん～～～、おいし♪」
　もちろんぺろりと平らげて、デザートの桃缶を開けつつりんごを剥いて食べ、ニャーゲンダッツも食べた。
　そうしてようやく満足したかと思えば、紫苑の脳裏には既に、明日の食事メニューが浮かんでいるのだった。
「明日は何を食べましょうか？　ふふっ、楽しみですね♪」
　どこまでも深く、尽きることなく、終わることなく広がってゆく。
　ああ……やはり、晩メシは宇宙なのだ。

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あとがき

担当マスター：網透介
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網です。
いつもお待たせしてしまって申し訳ありません。
もう少し早く書けるように頑張ります。

晩ごはんのお話、いかがだったでしょうか。
外食ももちろん嬉しいですが、スーパーのお惣菜コーナーにもわくわくしてしまいます。
この中から、どれを選んでもいいの……？　マジで？　という膨大な選択肢にくらくらします。
まさに宇宙。

それでは、また次回に。
網でした。

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