晩メシは宇宙だ。｜リアクション

晩メシは宇宙だ。

「うー、腹減ったー」
　晩メシは宇宙だ。
　誰が言ったかそんなワードがねこったーのトレンドに躍り出た夜。外食のため街へ繰り出した水守流もまた、飲食店街が擁する宇宙的ラインナップの豊富に翻弄されていた。
「今月ちょっち、ソシャゲに課金したからなぁ……懐具合が渋いぜ」
　寝子島にはジャンクフードから比較的リーズナブルな店から高級店までよりどりみどりだが、財布を覗けばおのずと選択肢は限られてくる状況だ。
　さてどうしたものか。バーガー屋には先週も入ったし、昨今ファストフードといってもお腹いっぱい食べようとするとこれが案外高くつく。おっとあそこには美味そうな回転ずし店が、いやいや学生に寿司は敷居が高いものがある。回らない寿司よりはマシだが少なくとも今夜のチョイスからは外れてもらうほかない、おやここはイタリアンか、パスタが美味そうだ。しかし値段がやはりううむ、この店はランチメニューをお安くいただくのが良さそうだまたの機会にしようかな。むっ、ハンバーグはどうだ、立ち食いステーキ店もあるぞ。
　などと思考の銀河が巡りはじめると一向に決まらない。
「やはり晩メシは宇宙か。となると、俺に残された選択肢は……よし、ここだ！」
　最終的に彼がのれんをくぐったのは、老舗牛丼チェーン店、寝子野家であった。おなじみ金欠学生の強い味方、貧乏サラリーマンの救世主。おお寝子野家、なんとありがたい。
　安心の安さ、安心の美味さ。おまけに注文して１分も待たずに食べられるお手軽さも魅力だ。
　店内は客でごった返していた。食事時はいつもこうだ。さして広くもない店舗のカウンター席へ、隣の客の尻と尻の間に流も腰をねじこむ。
　席に着き店員が水とおしぼりを置きにやってくるまで数秒の間、流の頭はやはり深く巡る。
（ここはやはり大盛りだろう、大盛りでもワンコインで食べられる。そこはゆずれない。欲を言えば味噌汁を豚汁に変更したいところだが、プラス１００円が後々響きそうだ。ここは味噌汁でガマンだ！）
　決意を固め、ご注文お決まりですか？　の問いに食い気味で、
「牛丼の並、生卵つけてください！」
「かしこまりました。並一丁～」
　と注文を飛ばして３０秒後、爆速で牛丼が届く。スタッフの連携はもはや職人芸、といってはいささか過言かもしれないが、とにかく待たずに食べられるのがありがたい。
（きたきた。さーて、まずは紅ショウガを乗っけてっと）
　おかわり自由なトッピングをたっぷりと乗せ、ひと口。
「うめえ……！」
　思わず声が出た。
　がつがつと学生らしい勢いで食べ進め、口休めに味噌汁をすする。濃い目のお味が染みた。
　半分をいただいたところで、満を持して生卵の登場である。
（ここで味変だぜ！）
　肉の上に直接黄身を落とし、かき混ぜる。躊躇せず思いきりいくのが流のスタイルだ。
　混ぜて混ぜて、かっこむ。
「うまいっ」
　食べる。食べる。あとはもう箸を止めることもなく、一気に完食。最後に味噌汁をいただいたら、
「ふぅ……」
　腹が満たされることの、なんたる至福。ワンコインで言うことなし、至上の晩メシはこうして幕を閉じた。
「おし！　腹もふくれたし、帰ってゲームでもすっかー」
　途中のコンビニでうっかり夜食を買い込み、結局財布の困窮にあえぐ流だった。

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