しずくがこぼれおちるとき＜白＞｜リアクション

しずくがこぼれおちるとき＜白＞

「全ては遊戯（ゲーム）生死（いのち）がかかった『だけ』の娯楽（ゲーム）じゃん。
楽しんだヤツが勝つんだよ」
　先陣を切るのは透破。高く跳んで、魔法陣の上に躍りかかる。
　陣の中につま先で着地した刹那、青い闇がぶわりと魔法陣の円の形に溢れ出し、触手のように伸びて透破を捉えようとしてくる。
「おおっと」
　闇をつま先で蹴って跳び上がった透破は、軽業師よろしく易々と宙返りで往なす。
　入れ替わるように瞬間移動で現れたのは、サキリだ。
「イツトリ、支援を頼む」
「どれ、儂の出番じゃな」
　陣の外からイツトリが＜煙吐く鏡の加護＞でサキリの周りに魔術的なものを防ぐ障壁を形成する。
　青い闇にどの程度効くのかは未知数だったが、青い闇の触手の何本かは、目標を見失ったかのように右往左往しているさまが見て取れた。
　その隙にサキリは魔法陣の中央に横たわる滴の体を抱え、黒い闇の触手を＜斬空赤刃＞の短距離高速連続発動による転移で躱して魔法陣の外に脱出する。滴の体を陣の外に横たえ、
「サキリ！」
　イツトリの声。
　背中に迫り来ていた黒い闇の触手を、戦闘用ナイフ二刀流で薙ぎ払う。
「イツトリ！　呪術での支援と障壁で黒白を守れ」
　指示してサキリはふたたび＜斬空赤刃＞を使った。
　左右に握ったナイフの刀身が朱く輝く。
　散る。
　散る。
　散る。
　青い闇が、千切れ、裂かれて、散っていく。
　どぽんどぽんと魔法陣の表面が青黒く揺れる。
　その闇の波の中から白い腕がにゅっと伸び出た。
　何かを掴むように、必死に伸ばされる腕には猫シールが貼られていて……。
（ああ、そうだ、あれは恵御納の！）
　修は気づいて、魔法陣の縁に駆け寄る。
「恵御納！　テオ！　黒白！！」
「八神君！！　そこにいるの！？」
「ああ！　みんないる！　戻って来い！！」
「八神君……あ」
　とぷん、と腕がまた闇の中に沈みそうになる。
　修はその手を強く掴み、必死に呼びかける。
「道を辿って、戻ってこい！」
「……だ、め……！」
「諦めるな！」
　闇の、飲み込む力が強い。
　夏朝の手を放すまいと掴み続ける修の体ごと、闇の中に引きずり込まれてゆく。
「く……、負けられない……のに」
　床に這いつくばって耐える修。その体を強く掴んで引っ張る手がある。
「うううーーー！！　絶対にみんなを連れ戻すんだーーーっ」
　幸次だ。幸次の体をあやめが引っ張る。
「そうです。みんな、戻って来なくてはだめ……なんです！」
　まるで大きなかぶの話のようだ。
　だがその状況を笑うものは誰もいない。
　あやめの体をさらにラッセルが、七瀬が、茂が、引っ張る。
「うあああーーーッ！」
「闇に呑まれるなんてまっぴらですよ……！」
「戻ってこい！！」
　そのとき、全員の声が、心が、ひとつになった。

　――戻ってこい！！！！！

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