２つの世界の狭間で｜リアクション

２つの世界の狭間で

◇先輩が女の子に？！

　寝子高２年の愛猫萌々子は、お付き合いしている万条幸次先輩と町で待ち合わせしていた。
　しかし、やって来たのは。
「ニャー」
　白地に黒い八割れ模様の猫だった。
「先輩の飼い猫の花遊さん？」
　花遊はなつっこく萌々子にすり寄ってきた。
　とりあえず抱っこしてみる。
「抱っこしてみたもののどうすれば……」
　先輩を探して視線をさ迷わせていると。
「……？　……！」
　急に後ろから花遊を呼ぶ声が聞こえたような気がして、振り返る。
（あれ、でも背中にはショーウィンドウがあったはずなのに）
　すると、窓にはだらしない……じゃなくてゆるーい服装の女の子が映っていた。

　どこか別の世界の寝子高３年、万条幸(ばんじょう　さち)は洗面所で戸惑っていた。
「洗面所の鏡に外の景色が映ってる……なんで！？」
　その景色の中に、幸は見覚えのある猫の姿を見つけた。
「あ、あの猫ってもしかして……花遊？　おーい！」
　猫はこれまた見覚えのある人物に抱きあげられた。
「愛猫くん？」
　だが、違和感がある。
　普段束ねられている髪が下ろされているせいかと思ったが。
「愛猫くんだよね？　似てるけどなんか違う……」

「万条先輩、ですか……？」
　ガラスに映る女の子を見て、萌々子は考える。
　女の子の姿ではあるけれど、顔も雰囲気も先輩と同じで、自分を愛猫くんと呼ぶ……。
（これは……どうやら似ているようで違う世界と繋がったのでしょうか）
　萌々子はそう推測した。
「愛猫くんって、そちらの世界の私は男性なんですか」
「えっ、女の子なの？　へー別の世界に繋がっちゃったんだねぇ」
　そう言えばスカートだし、なんとなく華奢だ、と思いながら幸は言った。
「ちょっと髪束ねてみて」
「えっ、こうですか？」
「そうそう。愛猫くんてそれぐらいある髪を結んでるんだよ、私とは比べ物にならないぐらいサラサラでねー」
「へえ……」
　男の自分も髪を伸ばしているんだ、と不思議な気持ちでいると。
「そっちの世界の私ってどう？　背めっちゃ高かったりしない？」
　幸が訊いてきた。
「えっ？」
　万条先輩の身長は、萌々子とあまり変わらない。
「あはは、その反応だとそうでもなさそうだねぇ」
「そうですね……万条、さんもあまり変わってないですよ。喋り方とか、なんだか同じだなあって思います」
「そうなんだ」
「ニャー」
　その時、花遊が鳴き声を上げた。
「こっちは花遊さんです、と紹介しなくてもご存じですよね」
　抱っこされている花遊を見て、幸は懐かしそうな顔になった。
「元気そうだね、良かった」
　幸が小学生の時、花遊は亡くなっていたのだ。
「そうだ、そっちの花遊とうちの花見って顔合わせられるかな、ちょっと待ってて。花見ーおいでー」
　その時、萌々子のスマホから着信音がした。
「あっスマホにメッセージが来たみたいです」
　急いで取り出してみると、メッセージが二つ。
「えっと、先輩から？　『花遊が脱走したから探してて遅れる。ごめん。』」
　その着信は少し前の時間だった。
「お喋りに夢中になってて着信に気づかなかった……！　花遊さんはここにいるのに！　ごめんなさい万条さん、ちょっと電話を……」

　幸は白猫を捕まえて鏡の向こうの萌々子に見せようとしたが。
「ほらこの子が……って、鏡が戻っちゃったかあ、がっかり」
　映るのは自分と猫の花見ばかりだった。
「違う私がいる別世界かー、いつかひょこっと行けちゃったりしないかなぁ」
　名残惜し気につぶやく。

　萌々子のほうも、呆然と元に戻ったショーウインドウを見つめていた。
（急に途切れてしまったのは残念でしたが……今は急いで先輩に連絡を取りましょう）
「あ、先輩？　花遊さんはここにいますよー」
　電話の向こうの慌てた声を聞きながら、萌々子はにっこり微笑む。
　来てくれたらさっきの別世界の話をしてみましょう、と思いながら。

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