ある迷宮で手繋ぎを・幽｜リアクション

ある迷宮で手繋ぎを・幽

えぐられたように顔に穴が開いていて、言いようのないほど暗い闇がのぞいている。そんな顔のない男とその手にある日本刀が綾花と珪先生を追ってくる。２人は手を繋いだまま、どこか逃げ込める場所を探して走り出す。正しい道かどうか考える暇はなく、顔のない男の視界に入っていないのをちらりと確認して、どこかの部屋に入った。特に言葉を交わすこともなく、２人は息を殺してじっと身を潜める。心臓が波打つ。恐怖と不安で涙が出そうになる。声を出してしまえば見つかってしまうから、それをなんとか我慢して、綾花は珪先生の手をぎゅっと握る。

（珪先生と一緒だから……きっと、大丈夫）

珪先生も声を出さないまま、綾花を落ち着かせるかのように手を握り返した。

遠くで何かが光った気がして、修は足を止めた。あおいも同じように立ち止まる。

（何だ……？）

そう思った矢先、光が近づいてくる。視界に入ったのは身なりのよい男の姿。透けて見えるからきっと霊だろう。顔には穴が開いていて、闇だけが見える。男が手にしているのは、ギラリと光る、日本刀。

修はあおいの手を引いて、全力で駆け出した。右に左に、どちらが正しい道なのか考えている暇はない。ちらりと後ろの様子をうかがうと、どうやらあおいと繋いだ手を狙ってきているようだった。

（手を離させるのが目的なのか……？）

角を曲がった瞬間に立ち止まり、側に落ちていた瓦礫を投げた。途端、日本刀を持った男の霊はぴたりと足を止め、瓦礫が落ちた方へ向かっていく。あおいに目配せして頷き合って、２人は物音を立てないようにしてまた逃げ出した。

少し広い部屋に出た。そこには痩せぎすな男と、着飾った婦人の姿が見える。こちらもまた透けて見えるから、霊なのだろう。修たちと同じように手を繋いでいる。霊たちはこちらの姿を認めると、その表情を醜く歪ませ、恨みがましい顔になった。いくらか距離があり、霊たちとの間には朽ちた大きなテーブルがあったが、彼らはすり抜けて襲ってきた。

「手を繋いでいるのが気に入らないのか？」
「それならわざとケンカしてみる……？」

あおいの提案に、修は首を振る。

「嘘でもあおいを罵ることはできないよ。だから霊たちを煽ってみよう」

霊たちに言葉が通じるかはわからない。それでも、好きな人を悪く言うことはしたくなかった。

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