ある迷宮で手繋ぎを・幽｜リアクション

ある迷宮で手繋ぎを・幽

綾辻綾花は見知らぬ屋敷の中にいた。ねこったーで噂されている屋敷だろうか。夜でもないのに、屋敷から見える空はとても暗い。

「珪先生……」

綾花は不安そうな表情で隣にいる早川珪先生を見上げる。辺りはいやに静かだ。どこからか何かが現れそうで、それでいて何が現れるのか分からなくて……ただただ、怖いという感情が綾花を包む。

（噂で聞いたことあるけど、まさかここに迷い込むなんて）

そんな綾花の手を、珪先生は優しく繋いでくれた。

「大丈夫だ。一緒に出口を探そうか」

綾花は頷いて、先生の手を握り返した。

「隣に珪先生がいてくれて良かったです」

八神修は七夜あおいと手を繋いでいた。突然の転移、見知らぬ場所、最初から繋いでいる手。修にはこの要素に覚えがあった。夢か現か分からない、霧深い森でのできごと。

「修くん……？　あっ、手……」
「待って」

とっさに離れようとしたあおいの手を、修は少し照れつつも握り繋ぎ止める。霧の森では手を離してしまうとよくなかったはずだ。今回もそうとは限らないが、現状を把握できるまでは繋いでいるままでいたほうがいい。

「最初から手を繋いでいたのは、何か理由があるのかもしれない。だから、このまま行こうか」
「うん。ちょっと照れくさいね」

あおいは繋いだ手を見て少し顔を赤らめる。修はそんなあおいに優しく微笑みかけた。

「俺たち土足だし、早めに家を出ようか」

修たちがいるのは建物の中。床板を踏むとギイッと小さく軋む音がする。

「この星ヶ丘の郊外に建つ奇妙な屋敷のことは、ねこったーの噂で知ってたんだ。この場所はこの家を出れば終わりだから、外まで行けばいいんだ」

おそるおそる辺りを見回すあおいに、修はそう勇気づける。

「……うん、分かったわ。じゃあ、よろしくね。修くん」
「こちらこそ」

寝子高から桜花寮への帰り道。バスケットボール部の先輩後輩である、羽生碧南と浅見柚乃は、謎の迷宮に迷い込んだ。

「まるでお化け屋敷みたい」
「ですね。夜でもないのに不気味なほどに暗くて、静かですね」
「そういえばねこったーの噂話にあったけど、ここがそうなの？」
「私も聞いたことがあります。脱出するためには出口を探さないと……」

柚乃の言葉を聞いて、やはりここは噂の迷宮で間違いなさそうだ。碧南はねこったーの噂話を思い出しながら、辺りの様子をうかがう。今は何もいないけれど、噂の通りなら、きっと２人が迷宮を脱出するのを阻む何かが現れるはずだ。

「柚乃、手を出して」
「はい、先輩……って、えっ」

碧南は柚乃の手に自分の手を重ね、握る。柚乃が驚くが気にしない。

「はぐれないように、手を繋ぐよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」

仲良く手を繋いで、碧南と柚乃は慎重に迷宮を歩き始めた。

柚乃はやたらドキドキしていた。怖いというのも理由のひとつではあるが、それだけではない。

（実は私は先輩に恋してて……）

はぐれないように手を繋ぐことになって、驚きもあったけれどそれよりも嬉しかったのも事実。顔が熱くなったけれど、この暗がりならきっと赤い頬はバレていないはず……バレていないことを祈る。

（先輩の足を引っ張らないようにしよう）

そう心掛けて行動することに決めた。

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