奇遇で儚き楽園｜リアクション

奇遇で儚き楽園

　夕日の赤が、９月の旧市街を染めている。
　ふたりは気づけば、元の路地にたたずんでいた。
　どこを見回しても広大な草原や森や海どころか『絶滅動物園』のアーチ状の看板も見当たらない。
　自分たちも、耳や尻尾は消えていて、いつも通りのひとの姿に戻っていた。
「日本の昔話にこういうのあるよねぇ。ありえない場所に行く話」
「マヨイガ伝承ですかね。たしかに絶滅動物園いうところは、なにかに導かれるか迷い込むかしないと、行けないに違いないとです」
「もう一度行こうとしてもそこにはなにもない。いつでも行けるわけじゃない」
「だけど……夢じゃないですよね。ドードー鳥を見たし、サーベルタイガーの子どもはふわふわだったし、ティラノサウルスに追いかけられたときのドキドキは忘れられなかです」
　先生も覚えていますよね、と聞くと、ウォルターはもちろんと頷いた。
「今日は悪かったねぇ。もう君の先生じゃないのに、説教臭かったんじゃないかなって心配してるよぉ」
「いえ、……こうして戻ってきてみると、先生の顔を見るのが恥ずかしかとですが……話を聞いてもらえて嬉しかったです。ありがとうございます」
「今日は楽しかったよ、倉前」
　倉前。
　呼び方が苗字に戻ったことが、ちくりと棘のように胸に刺さる。
「名前で、呼んでほしかです」
「また何かのときにね。――またね、があると思うほうがいいでしょ、お互い」

　そう言って手を振るウォルターは軽やかだった。
　沈みかけの太陽が、黄金色の光でウォルターの姿を包み込んでいく。
　七瀬は深々と礼をしてウォルターを見送った。
　かわいいなぁ、と撫でられた頭を、自分で触れてみる。
　ウォルターの手の感触を忘れないように。

　――七瀬。たった一人の『君』におなりよ。

　新たな問い。
　しかも前にも増して、むつかしそうな問いだ。
　しばらく路地に佇んでいた七瀬は、ふいに旧市街の馴染みの古書喫茶のことを思い浮かべた。
　本と珈琲の匂いが恋しい。かの店主の顔が見たい。
　まだ店を開けているだろうか。
　関係ない雑談でいい。
　すこし話したら、自分の中が整理される気がして、七瀬は旧市街へと歩き出した。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
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こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきました笈地行です。

大切なシナリオをお預かりしまして、
ドキドキしつつも精いっぱい書かせていただきました。

今回はセカンドマップから「絶滅動物園」を舞台にさせていただきました。

絶滅というワードがウォルター先生の抱えていると思われる
虚ろな部分と共鳴するような気がしたからでした。

かつてのシナリオでウォルター先生の過去も聞いていらしたようなので
そのあたりも絡めつつ。

ウォルター先生は気持ちを知ってもわりと今まで通り
クールビューティなかんじなのではと思いますが
それはまた、そのときのマスター様にお任せということで。

それではまた別のシナリオでお会いしましょう。笈地でした。

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