秋の雛｜リアクション

秋の雛

　同じ夜。
　柚春はいつもと同じようにカプギアворを机に置いて頬杖をついて話しかける。
「今日は誘ってもらって嬉しかったけど……やっぱりウォルター先生のことがわからないよ」
　無意識の、熱っぽいため息が止まらない。
「今日のことをウォルターさんはどう思ったんだろう」
　明け方の夢でみたワイルドでセクシーなウォルターと、現実のつれないウォルターが、変わるがわる脳裏に現れる。
　ворは何も答えない。
　いつもと同じように、ただ黙って聞いているだけだ。
　窓を開ける。涼しくなってきた夜風が火照った頬を撫でる。
　見つめる方角は星ヶ丘。
　宝石箱みたいな街並みの向こうにはブラックウッドの屋敷がある。
　今頃もう眠っているだろうか。
　
　柚春は、住職にいただいた菊のお守りを取り出して香りを嗅いだ。菊の花に綿を乗せて朝露と香りを移したものを菊の花びらとともに包んだ魔除けのお守りだという話だった。
　メアリの分もいただいたが、ウォルターと柚春ももちろん貰ってきた。
　よく考えたらお揃いだ。そんなちょっとしたことがとても嬉しい。
「近づいていいんだよね？　好きでいていいんだよね？」
　菊の香りに包まれて瞼を閉じる。
「困るって言われても無理なんだよ、ワット。あなたと寄り添えるって期待してしまうんだ――」

　雛は夢をみる。
　いつか叶うと信じて、夢をみる。
　重陽の節句は大人のためのひなまつり。
　女性が自分の幸せを願う日でもある。
　いつかあの立雛のように寄り添いあいたいと夢見るくらい、いいじゃないか――。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
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こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきました笈地行です。

早速ネタばらしですが、今回のタイトルは「雛人形」と「雛鳥」のダブルミーニングでした。

そしてそして。ウォルター先生の家に仕える老メイドさんを、
これ以上名無しにしておくことができず、名前を付けさせていただきました。

メアリさんです。

それにしてもウォルター先生はややこしいお方ですねー。
ほかのシナリオも読んで設定など引き継いだつもりではありますが

何でもそつなくこなす天才肌のハイスペック教師って
火遊び相手には困らなそうだけど
いわゆる「恋愛感情」ってわかるのかな？

という疑問にぶち当たってしまい、
しかも友を亡くした過去があるなら、
見せないように、自分でも見ないようにしている陰の部分も
きっとあるよなあ、とこんなかんじになりました。
教師という職にも並ならぬ思い入れがあって
だからこそ守りたいものもあるのではないでしょうか。

ほかのマスターさんはまた違ったように描かれるかもしれません。

ворさんは一番信念がわかりやすい人だったので、書いていて楽しかったです。
今回はどちらかというとворさんとウォルター先生のほうが親密度が上がっちゃった気もしますが（汗）
笈地版ウォルター先生とのひとときを、すこしでもお楽しみいただけましたら幸いです。

それではまた別のシナリオでお会いしましょう。笈地でした。

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