やまぬ雨音 - falling of the rain｜リアクション

やまぬ雨音 - falling of the rain

　じゅんが煙草を消すのを待っていたかのように、
「あたしのことも話すわ」
　さゆるはベッドサイドの壁に背をあずけた。
「親が残した遺産で、世間的には気ままに見える生活をあたしが送っていること……それはじゅんも知っての通り」
「国際的なビジネスパーソン、って感じだったんでしょう？　ご両親ふたりとも。それはなんとなくわかってた」
「そうみたいね。社会貢献にも熱心で、ずっと飛び回っていたわ。あたしを置いて」
「……でも、亡くなった」
　さゆるは黙ってうなずいた。まなざしは遠い場所を見つめている。
「両親を乗せた飛行機が墜落した。莫大な遺産だけが残った。ハゲタカみたいな自称『親類』がどこからともなく大量に湧いて出て、屍肉ならぬ黄金の山をついばむようになったわ。たった十二歳のあたしは、彼らの醜い争いを遠目に眺めているしかなかった」
　両親は万が一を考えていたのだろう、さゆるを守る法的な鉄柵（フェンス）を用意していた。柵がある限り、どんな強欲な『親類』もさゆると、さゆるの財産の主たる部分に触れることはできないはずだった。
「けれどね、父の弟を自称する男……片篠由樹弥だけはフェンスをかいくぐった」
「叔父ってこと……本当の？」
「偽りだった。それどころか、片篠はあたしの実の父親だった」
　さゆるの旧名は『片篠さゆる』だ。出生後まもなく朝鳥家に養子に出されたのだった。
「片篠……実の父はあたしを手に入れると地下室に閉じこめ、そこで何度も、一度ごとにたっぷりと時間をかけてあたしを陵辱した」
　じゅんが口を覆うのがわかった。驚く声を漏らすまいとしているのだと思われた。

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