霊界ポストからの手紙｜リアクション

霊界ポストからの手紙

●１６時１７分：✕✕ビル
　途中、自分と同じようにやや勇み足のバイクとすれ違った他はつつがなく、修は解体現場の付近まで辿り着いた。
　少し離れた場所にバイクを停めて徒歩で向かう。
　程なく半壊した小さなビルとショベルカー、それに瓦礫の山が視界に入り、修は人目に触れぬよう物陰に隠れながら様子を窺った。
　そろそろ日も暮れてきたからか、作業員たちは皆地上に出てきており、後片付けなどしているようだ。（中の様子も分かるといいんだが……）
　改めて剥き出しになった断面に目をやると、ほんの一瞬だったがそちらにも人影が見えた。
「……？」
　そのことになぜだか違和感を覚えた修は、外にいる作業員の人数を数えてみた。

　４人しかいない。

　ということは――。
「まずい！」
　修は敷地に忍び込んで物陰伝いにビルへ近づき、中に飛び込んで階段を駆け上がった。
　さすがに解体の余波で随所がひび割れているが、修のろっこんなら崩れたところでどうとでもなる。
　だから臆することも迷うこともなく彼は進み、そして３階に辿り着いたところで、
「わっ！？」
　ドカジャン姿でもなければヘルメットもかぶっていない、眼鏡を掛けたスーツ姿の男と鉢合わせた。
　その手には、いかにもなカバンをぶら下げている。
「待て！」
　男は修が声を上げるのと同時に手近な部屋へと逃げ込んだが、当然ながらそこは行き止まりだ。
　修はポケットに手を入れてゆっくりと彼に続き、入ってすぐのところを陣取った。
　無論、逃さないためだ。
「くく、く来るな、来るなあ！」
「どうして怯えるんだ？　まるで後ろめたいことでもあるみたいじゃないか」
　男は引けた腰に鞭打って部屋の中を逃げ回り、隅のほうで壁に背を付けて、おどおどと首を振った。
「ちちちちちち違う違う俺は悪くない、違う！　ただ手紙の通りにした、それだけだ！」
　手紙――そのワードを修が聞き流す筈もなく。
「聞き捨てならないな。バッグの中身は何だ」
　男はカバンを反射的に抱き締め、けれどすぐ何かに気づいたようにそれを突き放した。
「お、俺が悪いんじゃないんだ。俺はただ、作った。ただの趣味だ。あんな手紙さえ来なけりゃ」
「つまり――１６時３０分に爆発でもするのか？」
「……！　お、おおお前、まさ、まさか」
「質問に答えろ」
「そ、そ、そうだ。あと１０秒だ。邪魔、するなよ。これは、そうだ、も、もう決まったことなんだ！」
「認めたな」
「！？」
　刹那、男の持つカバンは霧散するように消えて、剥き出しになった配線だらけの危うい中身に半ば埋もれる液晶の赤い７セグが、残り１からゼロへとカウントダウンする瞬間。

　その物体の半分が、分解した。

　半分となった液晶は光を失い、床に転げた危険物も爆ぜることはなく。
　そうして唖然とする男のもとへ修は即座に駆け寄り、引き倒して制圧した。
「このまま通報させてもらう」
「け、け、警察なんか呼んだって！」
「さっきのまでの会話は録音した。半分だけだが証拠もある。文句があるなら取り調べで言えばいい」
　修はポケットからボイスレコーダーを取り出して見せ、男を黙らせた。