苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―｜リアクション

苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―

　調理室側を一回りした白沢絢子は、次に隣の被服室へ様子を伺いに行った。
　あちらではどんな味にしようかと話すグループも多かったが、こちらでは黙々と作業をしている人が多いようだ。しかし、やはり順調にとはいかないようで、少し縫っては糸を解いてみたり、布を何度も返して試行錯誤している桜井ラッセルの様子に目がとまる。
「困っていることはないかしら？」
「先生！　ランチョンマットを作ろうと思うんだけど……」
　例えば端布の端を整える程度の物から、細かくなりすぎないパッチワークのように組み合わせてみたりして。
　ミシンを使わず力量に合う物をと選んでみたけれど、真っ直ぐ縫うのが意外と難しい。
　現在の出来を確認しながら、ラッセルの苦手とするところを聞いた絢子は、少し悪戯っぽく笑った。
「針が苦手なら……針の出番を少なくしちゃいましょうか」
「針を使わない縫い物？」
「最近は、苦手な人のお助けアイテムが沢山あるのよ」
　とはいえ、まずは基本から。
　端処理の場合は三つ折りにして縫うことが多いだろう。苦手な人で多いのは、意外と横着してしまうことだ。
「折り目をつける部分に、ペンで印をつける……内側だから滲まなければ何でもいいわ」
　そうしてそれを折りながらまち針で止めてもいいのだけれど、向きを誤ると今度はこれらが牙を向く。軽くアイロンを当てればしっかりと折り目が付くので、簡単な物であればまち針がなくとも作業がしやすくなる。
「あとは、針の通り道をチャコペンで決めておけば、どこを通るか怖がらずに縫えるんじゃないかしら？」
　裁縫用のこのペンで書いた線は、アイロンの熱や水洗いで落ちる物が多い。布の種類によって使い分けは必要だが、仕上がりに影響を与えることはまずない。
「へぇー！　切って縫ってじゃなくって、下準備がいるんだ」
　確かにこれならば、なんとなく折りながら進めるより歪まず縫えるし、どこから針が飛び出るのかと怯えなくていい。
「どうしても、の時や手縫いで強度が心配なときは、こんなのもあるわよ」
　それは布用のスティック糊や、アイロンテープ。これ自体は仮止めとして使い、アイロンで圧着すればしっかり縫い合わせたようにくっついてくれる優れものだ。
「……これなら、俺にも手提げとか作れるかな」
　亡き祖母が服を作っていた姿を思い出し、いつかはと思うけれど。
　今の自分の腕前では、立体物を作れるかどうか。
「そうねぇ、何を入れるのかにもよるけれど、手提げなら補強縫いをしたほうがいいかしら」
　ただ苦手を克服しに来たのではなく、ラッセルには目標がある。それなら絢子に出来ることは――。
「道具の使い方を覚えるためにも、今日は便利グッズを使っちゃいましょう！　それから、補強したり飾りになりそうな縫い方を練習しましょうか」
「よろしくおねがいしますっ！」
　しっかり端処理さえ出来ていれば、不器用な並縫いも模様のようでご愛敬。
　ラッセルはいつか自分でペイントした手提げを手作りするのだと熱心に取り組み、ランチョンマットの周囲を縫い終わる頃にはなみ縫いが安定し始めていた。