苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―｜リアクション

苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―

　北校舎の二階。
　職員室や会議室があるここは、先生が連れ立って歩いていてもなんら不自然では無い。
　例えそれが担当学年も科目もバラバラで、一見して共通点が見当たらなくても。理事長の先導で家庭科室に到着しても。火や刃物を扱うのだから、監督の先生が多いにこしたことはないのだろうと――誰もが信じていた。
「それで、僕らは何をすればいいのかなぁ？」
　試験監督のように様子を見てまわればいいのかと、ウォルター・Bは質問する。
　けれど白沢絢子は不思議そうな顔をして瞬いてみせるばかり。
「何って補習よ？」
「補習の……どんな補佐を？」
　絢子の言葉を理解しがたく、桐島義弘は眼鏡を抑えつつ冷静に問い直す。
　けれどやっぱり絢子は繰り返す。
「……補習よ？」
　全員の視線が、野々ととおに集まる。
　絢子に「良かったらお誘い合わせて来て下さいね」と言われ、迷惑をかけた手前断れなかった彼は、先生たちに都合良く掻い摘まんで説明していたのだろう。引きつった笑いを浮かべるだけで、何も答えはしなかった。
「適任は他にいそうな物なのにと、思っては……」
　苦笑いを浮かべる早川珪は、ここまで来たのならという思いが半分。やっぱり苦手だしと尻込みしてしまう気持ちが半分。そうやって皆が歓談中に、五十嵐尚輝はそーっと、そーっとこの場を離れようとする。
　けれど、絢子はおっとりしているように見えて、意外と素早い。尚輝を周り囲むようにして、扉の前に立ち塞がった。
「わからないことは私でもいいし、きっと家事が得意な生徒も来てくれるわ。楽しく学びながら、美味しい昼食をみんなで食べましょうね」
　この部屋に入ってしまったからには逃げられないと――先生たちは覚悟を決めて補習を受けることにした。

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