苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―｜リアクション

苦手なものは苦手なんだからしょうがない!!　―家庭科の補習―

　大事な使命がある。
　今は微力だとしても、必ずやり遂げなければならないことがあると、宮祀智瑜は決意新たに白沢絢子に教えを請うた。
「破れたズボンを綺麗に繕うコツを教えて下さい！」
　智瑜は守らなけばならないのだ――桐島義弘のお尻を。
　厳密に言えば、ズボンのお尻部分が破れた際に覗く可愛らしい柄のパンツが人目に触れぬようにしたい、ということなのだが。
　それを説明してしまうと、義弘のパンツがいちご柄の日もあったと告げねばならず、本末転倒だ。
「そうねぇ……」
　一口に破れと言っても、色々あるにはあるのだが。義弘がわざとらしく咳き込んでいるのだ、何も言うまい。
「まずは裂け目に沿って。それから元の縫い目に合わせて二回縫うのがいいかしら」
　一番大事なことは、布の状態を確認すること。酷使されていることに気づかれにくい箇所なので、薄くなっている場合は応急処置だと割り切ることも大切だ。
　縫い合わせた分だけサイズが小さくなることも考慮すれば、何度も繕う物でもない。ゆとりがなくなれば、余計に布は突っ張ってしまうため破れやすくなるのも、見落としやすい点だ。
　わかりやすい見本がなかっただろうかと、絢子が準備室の方に向かうのを、智瑜は呆然と見守るしか無い。
（まさか、義弘先生のお尻を危険にさらしていたのは――）
　智瑜は、上手く繕えば長く履けるのだと思っていた。
　義弘もまた、折角繕ってもらったズボンが帰宅までの間に合わせなどと思ったこともなかった。
「……今回の補習は私に必要だったようだな。有益な学びを得られた」
　このままでは、義弘は頼ってくれなくなってしまう。
　折角、破れが分からなくなるぐらい上手に縫えるようになったのに、応急処置でいいからと任せて貰えなくなったら……。
「だからといって、応急処置に見合う処置ができるかは別のようだ」
　いかにも『縫いました』と言わんばかりの仕上がりに、これでは外を歩けないなと顔を顰める。それがほんのちょっぴり嬉しいと思ってしまうのは、ダメだろうか？
「先生っ！　上達するまでは私が繕いますから大丈夫ですよ」
「む……まあ、致し方ないな。一朝一夕にはできないだろう」
「練習で怪我をしたら言ってくださいね？　手当の準備もできてますから」
　ハートに星に動物に……とにかく可愛らしい柄の絆創膏セットを見せてくれるので、義弘は絶対に指をさすまいと手元を真剣に見つめるのだが――。
「うっ！」
　死角に入ったまち針にしてやられ、本日のパンツと同じ柄の絆創膏を貼られてしまうことになった。

「今回はお裁縫でしたけど、いつか私も手料理を先生に食べて欲しいです」
「んんっ！　まあ家庭科の補習などの機会であれば……」
　生真面目な彼が、楽しみにしているとリップサービスをするタイプでないことはわかっている。だからこそ、何か取っかかりがありさえすれば食べてくれる、ということがわかっただけでも智瑜は嬉しかった。
「先生の大好物ってなんですか？」
「好き嫌いというのはよくないだろう……ただ、一人暮らしだとどうも野菜不足の懸念があるな」
　智瑜は祖父母が営む『宮祀青果店』の二階で暮らし、毎日のように野菜に触れあっている。
　店のお手伝いをするから野菜には詳しくなったし、祖母に料理も教えてもらっている。野菜をたっぷり取れる料理なんて、智瑜にとって一番有利であると彼が気づかぬわけもないのに。
「これからの時期に美味しいお野菜で、色々作ってみますね！」
　頬が緩んでしまうのは、止められそうに無かった。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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みなさまご参加ありがとうございます！
家庭科の調理実習では、怒られた記憶しかない浅野です。

最近は忙しい方や本当に家事が苦手な人に向けてなど、サービスが細かにあって便利ですよね。
出来なくても困りはしないけど、出来たほうがちょっと便利で楽しくなると、私も思います。
苦手なＰＬさんは、ＰＣさんの奮闘ぶりを見て一緒に練習もいかがでしょうか？

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