さよならサマー、またきてオータム｜リアクション

さよならサマー、またきてオータム

　ラッセルが「はぁ～、夏休みが終わっちまう～」と言いながら宿題を写していた頃。
　彰尋は家で入浴後、水分と共にクッキーを食べていた。
「ドライフルーツ入りか。美味しいな」
　飛ばされてきたスケッチブックを掴んだお礼として貰ったものだ。
　食べ終えて容器やコップを片付け、歯磨きも終える。
　ゆっくりストレッチをしていた時に、ふと思い浮かんだのはあおいの顔だ。
　スマホを手にとって、ニャインであおいにメッセージを送ってみる。
『元気？　明日、始業式だね』
　息を吐きながら体を伸ばしたところで、ぽこん、と音がして返信。
『うん、家族も私も元気。今日で夏休みも終わりかーって思うと、寂しいね』
『そうだね。僕もとても残念だよ。あ、そうだ。宿題は終わってる？　って、終わってなかったら今のんびりしてる訳ないよね、ごめん』
『うぅん？　私は早めに終わらせておいたけど、ののこちゃんは晩ご飯の前まで感想文書いてたみたい』
『うわぁ、それは大変だ』
　スマホを手に、思わず笑ってしまう。
『話してくれてありがとう。また、明日』
『うん。また明日ね。おやすみなさい』
　おやすみ、と返事をしてからストレッチを終えて、彰尋はベッドに潜り込んだ。

◆

　彰尋がベッドに潜り込んだ頃。
　猫鳴館では就寝している者は少数派だった。
　なぜなら、宿題が終わってない連中が勢揃いしてラストスパートをかけていたからだ。
「ダメだ……全然わけ分からなすぎる」
　問題集に居並ぶ数式達を眺め、月原想花は思った。
　――これなら、異世界の魔法の方がまだ分かる、と。
　日時は８月３１日の夜１１時を過ぎている。日付が変わるまであと少しだ。
「なぁ皆、本当に宿題、片付くと思うか？」
　朝っぱらからため込んだ宿題をやり続け、疲労困憊している先輩が、しまらない笑顔で言い出すと、周りから「終わりますよぉ～」とか「まだ明日の提出まで時間あるし」とか「始業式は爆睡っスね」などという、だらっとした返事が。
　想花は問題を解くのに集中したかったので、ひたすらガン無視してシャーペンを走らせる。

（この人たちには今まさに修羅場！　という意識が無いのかな？　そんな無駄口叩かないようにして欲しいよ）

　どうも猫鳴館には修羅場が好きな面々が集っているいるらしく、悲鳴を上げている割には楽しげに手を動かしている。
　想花はというと、もう時計を見るのすら嫌だった。

（この拷問から早く解放されたい……ッ！）

　何時だか分からない時間に、ようやく片付いた宿題を持って自室に引っ込んだ想花は、ベッドに倒れ込んだ。
　答えが合っているかどうかなんて考えたくない、と呟きながら。