さよならサマー、またきてオータム｜リアクション

さよならサマー、またきてオータム

　９月１日。
　その日は、多忙な深林真瞭のスケジュールの中で、ぽっかりと休みになっていた。
「そういえば、まだ一度も水着を着てないなぁ」
　思い立った真瞭は、すぐに親友の深倉理紗子に連絡をとった。
　すると、彼女もたまたま今日は代休日だという。
　――そんな訳で、２人は寝子ヶ浜海岸へ出かけることにした。
　今年最初で最後の海を満喫するために。

「りさちん、レジャーシート、この辺でいいかな」
「うん。飛ばされないように石を置いて、パラソルも立てよう」
　平日の海岸は、ほぼ人気がない。２人は場所を確保すると、シートに座って辺りを見渡した。
「昨日まで夏休みだったでしょうに……嘘みたいに静かだね」
「そうねぇ……」
　ふたりは揃いのエスニック柄のマキシワンピースを着ている。
「ま、人いないし、いいか」
「ふふっ、子供の頃に戻ったみたい」
　更衣室に行かず、砂浜でワンピースを脱ぎだし、空に放り投げる。
　ひらひらと砂浜に落ちてきたのを拾い、砂を払ってバッグにしまったら、日焼け止めを塗る。
　後は海に一直線だ。
「さー、りさちん、子供のテンションで、遊びまくりましょ！」
「はーい！」
　まずは、波打ち際できゃあきゃあ言いながら、互いに水を掛け合う。足下の砂が、波でさらわれてゆく感覚にはしゃぎ、ゴーグルを取り出して素潜りする。
　海中の生き物を互いに指さして、笑い合う。
　その後は、サンダル履きで潮だまりに直行だ。
「まーちゃん、カニがいるよ、カニ」
「ちっちゃすぎて食べられないねぇ」
　小さなカニを捕まえて、じっと観察したり。ウミウシやらイソギンチャクを見ていると、あっという間にお昼過ぎだ。
　持ってきたサンドイッチを食べ終えた辺りで、日焼け止めを塗り直していると、砂浜に小学生がやってくるのが見えた。
「あ、そっか。もう始業式が終わる時間なんだわ。リアル小学生は元気ね」
　微笑む真瞭の視線、その先で。
　彼らは砂浜にランドセルを放り出し、着替え用のタオルを使って水着になると（１人だけ服の下に水着を着ている子がいたが）我先にと波打ち際に突撃して、ぐんぐん泳いで行ってしまう。
「あんなに遠くまで行っちゃって大丈夫かな……」
「大丈夫よ、ここにりさちんというお医者様がいるもの」
「もー、まーちゃんプレッシャーかけるのやめてよー」
　大分疲れた様子ながらも、彼らは全員戻ってきて、次はビーチボールで遊び始めた。
　理紗子と真瞭は、サングラスをかけて、仰向きに寝転ぶ。
「３０になって半月になるけど……全然実感ないわ」
「でも、そのうちじわりじわりと実感するんじゃない？」
「他人事みたいに言ってくれちゃって。りさちんだって１２月には３０歳じゃない」
「でもそれまでは２０代だもんね、真瞭お姉さま」
「もー、それなんて百合～？」
　首を傾げつつ、冷たい飲み物を飲んでいると――ボールが転がってきた。
　小学生の声が聞こえる。
「すみませーん！」
「とってくださーい！」
　カラフルなボールを拾い上げて、理紗子は小学生に手を振る。
「ねぇ、あの子たち、これから砂のお城を作るみたいよ。面白そうだし、混ぜてもらわない？」
　真瞭の提案に、それもいいかも、と理紗子は頷いたのだった。

◆

「ただいまー！」
　夕方までさんざん遊びまくった奏子が水着のまま帰宅すると、奥のリビングから母の声が聞こえた。
「おかえり、奏ちゃん。随分遅かったけど、どこに行っていたの？」
「うん。海で泳いできたの。友達とー、水着のお姉さんたちと砂のお城も作ったんだよ！」
「海に？　もー、早く着替えて、お風呂入っちゃいなさい。お姉さんたちにはありがとう言ってきた？」
「うん。ありがとうございました、って言ってきたよ」
　お風呂に入るように言われ、奏子はとりあえず荷物を置くために部屋に行った、のだが。
「楽しかったなー、お姉さんたちもきれいだったし……」
　睡魔に襲われ、ベッドに倒れ込む。
　そのまま、母親が起こしに来るまで眠り続けたのだった。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆さまこんにちは。

『最後に海に行ったのはいつだったっけ？』の……陣　杏里です。
宿題終わってたり、終わってなかったり、進路を決めたり、ドキドキのＡＣをどうもありがとうございました。
皆様に楽しい秋の一日をお過ごし頂ければ幸いです。

ご参加下さった方、お読み頂いた方、どうもありがとうございました。

失礼します。

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