霊界新報社、スクープを狙え！｜リアクション

霊界新報社、スクープを狙え！

　旧市街にあるアパートの部屋で落合まゆらは仰向けになっていた。キャミソールとショートパンツの涼し気な格好ではあったが、露出した肌は汗で濡れていた。手で風を作り出そうとする。
「風が熱いわ」
　扇ぐ手は力尽きたように動きを止めた。
　ぼんやりとした状態で天井を眺めていると目が合った。いきなり顔が現れて、バイトしませんか？　と声を掛けてきた。
「……幻影に、幻聴ね」
「現実ですよ？　わたし、なりたての幽霊ですけど」
「それで何のバイト？」
「記者です。こちらで見つけたネタを調べて記事にして貰えませんか」
　幽霊は媚びるような目で言った。
「アニメのような急展開ね。これも縁ってもんよね、いいわ」

　霊界に着くと山へ向かった。補助要員には鬼を選んだ。見た目で同性とわかるが、まゆらとの身長差は相当で見上げて話をしないといけなかった。
「山の中腹の横穴らしいけど、意外と涼しくて助かるわ」
「そうかもしれないけど、距離はありそうだな」
「そうなの？」
「急な山の斜面が続いていて、横穴らしい物は見当たらないな」
　鬼は前方を睨むようにして言った。
「まあ、炎天下の中を歩くよりはいいよ」
　軽口を叩きながらまゆらは斜面を上がっていく。
　軽快な足取りは最初だけで徐々に動きが鈍くなる。底なし沼に足を取られるような状況が続き、まゆらの顎先から汗が滴り落ちた。
「これは、キツイかも。横穴は、まだ見えない？」
「あれが、そうだな！　あと少しで着くよ」
「……やっとだね」
　気力を奮い起こして足を動かす。
　二人は横穴に到着した。
　鬼は頭を下げるような格好で中を覗き込む。
「頭が当たるね。屈めて入らないと。中は薄暗いけど、見えない訳ではないな。行き止まりになっているところまで見えるよ」
「それならすぐに取材は終わりそうね。あまり書くことがないと記事に纏めるのは難しそうだけど。あ、それと黒いアレはいる？」
　まゆらは鬼の背に回って言った。
「黒いアレってゴキブリのことか？」
「そっちも嫌だけど、そうじゃなくて芋虫に無数の毛が生えたアレよ」
「毛虫か。それはいないな。でも、なんでだ？」
「よかったわ。理由は、その、トンネルでトラウマ級の恐怖を体験したってことで」
　思い出すのも嫌なのか。口を噤んだ直後に身を震わせた。
　十分の休憩を取り、二人は横穴に入っていった。ひんやりとして肌に気持ち良く、呆気ないほど簡単に壁に行き当たる。
「壁の左右に穴があるね」
「そうみたいだな」
　鬼は腰の辺りを摩る。背中を丸めた状態なので前に目をやるのも億劫そうだった。
　まゆらは片方の穴に目を近づける。奥は暗くてよく見えないが輪のような物があった。恐る恐る手を入れて掴んでみる。
「なんか握れる輪があるんだけど」
　引っ張るような動作のあと、諦めて手を離した。また身震いを起こす。目にした鬼はにやりと笑う。
「毛虫でもいたか」
「そうじゃなくて意外と中が涼しくて。早めに切り上げた方がよさそうね」
「そうしたいところだが、何か新しい情報を仕入れないとな。その壁とか」
　鬼が指差した壁面に子供の絵が描かれていた。隣り合うように横線があった。
「この二つの穴の中の輪と、子供と横線。全く関係が無いとは思えないわ」
「そうだな。こちらの穴も同じなのかな」
　鬼はまゆらとは別の穴に手を突っ込んだ。
「輪のようなものがある。引っ張ってみたが動かないね」
「壁の絵が謎解きになっていたりして」
　まゆらは子供の絵と横線を見つめる。触ってみたが仕掛けを動かすようなスイッチは見つからなかった。
「色々と試してみて、その結果について書けば記事になるよね」
「まずはやってみよう」
　賛同の声を得てまゆらと鬼は色々な方法を試した。
　新報社に戻ると試した方法と結果について書き連ね、記事として完成させた。

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