霊界線で最大規模を誇る花緑青(はなろくしょう)駅。今日も多くの乗降者が街にどっと流れ込む。駅に面した大通りは妖怪や付喪神で埋められて流れが非常に悪い。混雑を嫌った幽霊の類いはふわふわと気ままに空をゆく。
その喧騒から少し離れたところに霊界新報社があった。雑居ビルの三階フロアを一社で占めて、日々、原稿に追われていた。今も多くの記者が宛がわれた机に向かって取材した内容を書き込んでいる。
その最中、軋むような音が鳴った。記者達の目が一番奥の机に流れる。
スーツを着た大柄な女性が腕組みをした姿で座っていた。身体を前後に動かしている。数回に一度の割合で重々しい音を立てた。
「まだなのか」
苛立ちを抑えられない。低い声を耳にした記者の一人が小声で言った。
「……あの、デスク。キャップのことでしょうか?」
「そうだ。この忙しい時に五人も記者を引き連れて、どこをほっつき歩いているんだ。おまえ、何か聞いてないか。今日の何時に戻るとか」
耳にした別の記者がおずおずと手を挙げる。
「先程、連絡がありました。キャップは泊まり掛けの取材なので、今日の帰社はないそうです」
「聞いてないぞ!」
組んでいた腕を解いた瞬間、デスクは握った拳を机に叩き付けた。その衝撃で細々とした文具が弾けたように机から転がり落ちた。
「見つけたネタをどうするつもりだ! 他社に出し抜かれるぞ!」
「や、雇いましょう。臨時の記者を!」
白装束の女性記者が叫んだ。デスクの怒りは瞬時に収まり、冷静な状態で聞き返した。
「広告を打つ時間はないぞ。どのような手段を講じるつもりだ?」
「直接の勧誘をして、その場で採用を決めます。霊界はもちろんですが、寝子島や星幽塔まで範囲を広げれば人数は集まると思います」
その言葉にデスクは再び腕を組んだ。半眼の状態となって唇を引き結ぶ。
「その案、採用だ。早速、動いてくれ」
「わかりました。わたしの知り合いの幽霊や付喪神にスカウト役を頼んできます。あ、それと原稿が完成したのでチェックをお願いします!」
女性記者は半透明の姿となり、飛ぶように外へ出ていった。
今回のシナリオの舞台は霊界になります。参加されたPCさんは記者となって肉体を酷使し、
時に頭を使って取材に当たります。早速ですが下記をご覧ください。
霊界
薄ぼんやりとした空でそこそこ明るく、取材に悪影響を及ぼすことはない。
取材先は現世と同じ状態に等しく、生身の行動は自ずと限られる。
ただし「ろっこん、特殊能力」は自由に使えるものとする。
滞在時間は現世の約一日。新報社が用意した方法で現世に戻る、または時間切れの強制送還となる。
例外として霊界の住人は影響を受けない。自発的な帰宅となる。
ネタ
新報社の記者が見つけた取材先。PCは事前に聞かされた内容から判断して取材方法を選んで原稿に纏める。
取材先
1:巨石が転がる平原
平原に巨大な石が散らばる。風化が進んで自然石のようにも見えるが、文様のような物が幾つか残されていた。
平原は緑に覆われている。地形に多少の変化がある。重い物を引き摺ったような痕跡がちらほらと目に付く。
2:白く煙る沼地
霊界の端にある雑木林の一部に存在する。一帯が白く煙っていて迷い易い。
煙の発生源は沼地と考えられている。雑木林では割れた陶器が多く見つかっていた。
3:山の中腹の横穴
横穴に通じる道はない。木々に覆われた斜面の先にひっそりと黒い口を開けている。
奥行きはあまりなく、天井が低い。代わりに横幅は六メートルにもなる。突き当りの部分は壁のように平らで
両端に丸い穴がある。中には掴めるものがあるが用途はわかっていない。
近くの壁には子供の絵が描かれていて、すぐ近くにマイナス記号のようなものもあった。
4:霊界の取材先は自由
どのような場所で、どのような方法を選択しても構わない。
デスクがスクープと判断すれば誌面のトップを飾ることも。
補助要員
デスクが用意した助っ人。一人に対して一人の補助要員を利用できる。GAの場合は複数に一人となる。
幽霊:物体を掴むことはできない。物質を擦り抜けることは可能。
鬼 :身体が大きくて力が強い。体重もあって動きはやや遅い。
河童:小柄で水陸、どちらでも対応できる。頭の皿には水分が必要。
説明は以上になります。行き先に合わせた補助要員を選ぶことが本シナリオの醍醐味ですね。
もちろん単独で解決してもいいですよ。あと答えが一つとは限りません。いろんな解釈があるはず!
同じ取材先で違う手順でもなんとかなる! これも霊界の特徴かもしれません。ええ、神魂ではなくて……。
取材のあとの原稿は漏れなく書いたことになります。そこまでの過程をデスクが読んで、
МVP的な一作を選出します。バイト代にちょっぴり上乗せの報奨金が贈られます。
霊界の記者となってスクープを狙え! 報奨金もね(にっこり)。