霊界新報社、スクープを狙え！｜リアクション

霊界新報社、スクープを狙え！

　月原想花は路上で声を掛けられた。
「記者の仕事に興味はありませんか？」
　優しい声音もあって、すぐに足を止めた。横手を見た瞬間、表情は一変して急に震え出す。まともに目を合わせられず、後悔が表情に滲み出る。
　相手は優し気な笑みを浮かべた若い女性だった。白装束を纏った身体は透けていてふわふわと宙に浮いている。もちろん足はなかった。
「ぼ、ぼくに話し掛けて……いるんだよね？」
「そうですよ。バイト代も出ます。どうですか。臨時の記者として働いてみませんか」
「いきなり言われても」
「良い体験になりますよ。人助けにもなります。私が大いに助かります。これはもう絶対です。やりましょう」
　女性は顔を突き出すようにして迫ってきた。自ら頭を縦に振る。釣られた想花の頭が同じ動きをした。
「ありがとうございます。では、霊界に案内しますね」
「え、ええ！？　今から？」
　押しの強さに負ける形で想花は霊界に連れて行かれた。

　霊界新報社で一通りの情報を得た。想花は補助要員の幽霊を伴って平原へ向かう。
「ここがネタの場所なんだよね」
　緑の平原に巨人が無造作に投げ捨てたような巨石が散見される。見晴らしはよく、適度に吹く風が心地よい。
　穏やかな顔で想花は歩き出す。軽く両腕を開いて風に向かって歩いていると咳払いが聞こえてきた。
　補助要員として付いてきた男性の幽霊はスーツ姿。冷ややかな目に想花は軽く身震いを起こす。
「何か発見はありましたか」
「あ、ああ、そうだよね。巨石に文字みたいなものがあるかな」
「ありますね」
　一言で切り返して想花をじっと見つめる。無言の圧力を受けて慌てて喋り出す。
「ここって遺跡だよね。巨石は柱の一部だよ、たぶん」
　男性の視線から逃れるように足を速める。急に膝が折れて前へ倒れそうになった。瞬間、大きく踏み出した一歩で踏み止まる。
「なんか、引っ掛かったんだけど」
　後ろを振り返って問題の個所を見下ろす。試しに草の上から掌で触ってみた。
「かなり太い溝があるよ」
　延長上にある巨石にそれとなく目が向かう。
「重い物を引き摺った跡だとすれば、あの巨石かな」
「見た目で判断しますと相当な重量があるのでは」
「そうだね。あと人為的に動かした理由はなんだろう。あ、そうか。強大な力を持つ者が起こした事件の可能性もあるよね」
　言いながら想花はポケットから手帳を取り出す。思い付いた断片的な内容を素早く書き込んだ。
　黙って聞いていた男性は眼鏡の中央のフレームを中指で押した。
「確証のない推論、いえ、妄想に近い内容に思えます」
「まあ、そうだよね。だから今から本腰を入れて調べるつもりだよ」
　密かに溜息を吐くと想花は巨石を当たる。回るようにして表面を見ていく。終わると草を両手で掻き分けて新しい発見に努めた。
「これは……」
　土の一部が黒く変色していた。一部を掬い上げて鼻に近付ける。
「ほんの少しだけど焦げた臭いがするかな」
　他の地面でも同じ色の土が見つかった。
「何か凄い爆発があったんだよ。一番、土が黒いところ、たぶんここが爆発の中心だよ」
「巨石と溝の関係は？」
「その爆発の威力で柱が砕けた。残った一部が巨石になったんだよ。溝は吹き飛ばされた時にできたものだよ。ここから見るとよくわかる。どの巨石の文字も摩耗して見えないんだよね」
　話を区切ると想花は走り出した。巨石の裏に回って指差した。男性は宙を飛んで背後に回る。
「外側は被害を受けていないから薄っすらと文字が残っているんだよ」
「なるほど、その仮定は悪くないですね。あとは裏付けですが、それはこちらで進めましょう」
「ぼくはここまでにわかったことを記事にするよ」
「連載物になるかもしれませんね。がんばってください」
　男性は目を細めて微かに笑った。驚いた想花は呆けたような状態となった。
「がんばるよ」
　やや遅れて笑顔で答えた。

このページにイラストを設定する