【＃13　コンバットブーツをはいた猫】

　ジョニーですニャ。
　知ってますか？　人間と同じように、今では寝子島で当たり前の存在とニャったほしびと、それにあやかしも、なかなかに味わい深い観察対象なのでありますニャ。
　そこで今回は、ボクの友だちの体験談を通じて、とあるあやかしのエピソードを紹介したいと思いますニャ。



　ボクの友だちは、『長グツをはいた猫』ですニャ。そう、みんニャ知ってる、猫界のヒーロー！　人間の間でも、童話として知られているようですニャ。ま、ヒーローっていうのは正直かなり、盛られてますけどニャ。
　友だちはその日、途方に暮れていました。
「ああ、ヤベーなぁ。ヤベーっすよこれぇ、マジやっちまったすわぁ」
　彼はご主人からもらった大切な長靴を、失くしてしまったのですニャ。もうちょい具体的に言うと、ニャスベガスの猫ポーカーで巻き上げられてしまったのです。童話ではここのトコ、端折られてますけどニャ。
「マジやべー。っべーわマジ、旦那サマになんつってセツメーすんべ」
　友だちはご主人のことをたいそう慕っていたそうです。このご主人というのが人間なんですけど、なんで猫が人間のシモベにならなきゃいけないんですかニャ。まあ、なにか通じるものがあったんでしょうかニャ。友情とか。ボクにはよくわかりませんけどニャア。ボクも今は人間のおウチに住んでますけど、ヒメコがどうしてもボクをお世話したいっていうから、住んでやってるだけなんですよニャ。けっして、ペットとして飼われてるわけではないんですニャ。
　はニャしがそれましたけど、ともかく……長靴がなければ友だちは、ご主人を王さまにしてあげることができません。長グツをはいた猫、知ってますよニャ？　あれ、そーいう話ですからニャ。
「っべー。っべーわ、マジ詰んでるっすわこれ」
「お？　どーしたん猫くん、そんなしょぼくれちゃって」
　そこに現れたのが、このあやかし。漫 歩くんだったのですニャ。
　友だちは親切そうな人間の青年に、すがるようにして話を聞かせてしまったそうです。
「へえ、大事な長靴をねえ。そりゃ大変だなー」
「そーなんすよソゾロパイセン、マジやべーんす、このままだとご主人が本物のカラバ侯爵になれねーんすよ」
「なるほど。けど、それならさぁ。俺がここを通りがかったのは、運命ってヤツかもしれないよ？」
　友だちは思わず、ピンと尻尾を立てて身震いしてしまったそうです。
　なんせたまたま偶然、そこを通りがかって友だちと出会った歩くんは、コンバットブーツの付喪神だったのですからニャア。



　そこからは大冒険の連続だった……と、友だちはコーフンしながら身振り手振りも交えて語ってくれましたニャ。
　元の姿、コンバットブーツに変身した歩くんを履いた彼は、もー無敵でしたニャ。
　すさまじースピードで森の中を駆けまわって、何十羽ものウサギを捕まえて王さまに献上したり。
　川も谷もひとっとび、いくつもの村々を飛び回っては村人たちに、「誰かが来たら、ここはカラバ公爵の土地だと言うように」と頼んだり。
　おかげでカラバ公爵ことご主人は、王さまとお近づきになり、お姫さまと親しくなることもできたのですニャ。
「ソゾロパイセンのおかげっす、マジカンシャっすパイセン！」
「けどさー、公爵さんが自分のお城ひとつも持ってないって、問題じゃない？　玉座とかにででーんっと座ってさ、堂々とした姿で王さまをお出迎えしたいじゃん？」
「それ、いただきっす！　リスペクトっす！」
　ふたりが向かったのは、とあるお城。近隣の村々に恐れられる、悪辣な魔法使いの住む城ですニャ。
　猫足にぴったりフィットなコンバットブーツを黒光りさせながら、友だちは魔法使いの城に踏み込んで、言ったですニャ。
「ちょいと魔法使いさん、あんたの魔法ってばブッとんでるってマジウワサんなってるっすよ。マジになんにでもなれるんすか？　それってマジなら、やべーっすよね？」
「あたりめえだ、ワシに変身できんもんなんかねえわい。なんなら見せちゃろか？」
　友だちを脅かそうと、魔法使いは巨大なオーガ（鬼）に空飛ぶドラゴン、いくつも首がある地獄の番犬に黒マントの死神などなど、おそろしい怪物の姿へと次々に変身していきましたニャ。
　その凶暴な姿に、友だちは作戦も忘れてすっかりブルってしまい、毛を逆立てましたニャけど。
「なあ猫くん、君が今履いているクツはなんだい？　こんなヤツにビビる必要ねーじゃんよ」
「マジっすかパイセン、パネーっす！」
　ほんとはここで魔法使いに、『そんじゃあもっともっとちっこいネズミなんかにも化けられますかい？　いやあ、偉大な魔法使いサマにもさすがにそいつは無理ですかねえ』『できらあ！』と言わせて、友だちがネズミをぱくんと飲みこんでオワリ。めでたしめでたし、となるはずニャんですけど。
　この世に一つのスーパーコンバットブーツをはいた猫は、巨大ドラゴンをとびげり一発であっさりＫＯ！　お城をゲットし、そこへ移り住んだカラバ公爵は王さまに気にいられ、お姫さまと結婚し、やがてこの国の王さまとなり、愛猫と王妃をたいそう愛でながら幸せに暮らしたのでした。



「……って、ボクの友だちが言ってたんですけど。アイツけっこーホラ吹きですからニャア。歩くん、マジなんですニャ？」
「あっはは。さあね～？　散歩は日課なんだ。どこまで行ってなにをしたかなんて、いちいち覚えちゃいないねぇ」
　う～ん。クールですニャ！
　あやかしもニャかニャか、面白いもんですニャア。