【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者｜リアクション

【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者

●週刊かぎしっぽvol.XX027『ほんとうは何にゃ？』

　旧市街『浅葱眼鏡店』の店主、灰色髪で猫背で眼鏡の浅葱あやめ氏のことは皆よく知っていることと思うにゃ。
　例にもれず、猫飼いの、猫にやさしい青年にゃ。
　おじいさんから眼鏡店を引き継いだものの、あまりに笑わないし人間も苦手そうにゃので、猫の目にも心配だったにゃが、吾輩はみたにゃ。あの、あやめ氏が大変身したのにゃ！

　そこは『劇団イーリス』ってところだったにゃ。
　控室に入ったあやめ氏は、重っくるしい前髪をあげ、化粧をし、燕尾服に着替えたにゃ。
　そうしたらにゃんと！
　猫背はぴん！
　立ち姿からはキラキラオーラが出ているにゃ！

「え～～本日は、劇団イーリスの公演にお越しいただき、誠に、まこっとにありがとうございます！
　私前説担当の、毎度おなじみノイジー・パンジーと申します」

　ど、どうなってるにゃ！？
　これがあのあやめ氏かにゃ？
　ぼそぼそ声は遠くまでのびやかで堂々として、まるで別人にゃ！
　人間が「芝居」といって、別の人間になって別の人生を演じることがあるのは知っていたけど、こんなに元の人間とまったく違う人になったりするものなのかにゃ。それとも、本当はこちらが本当のあやめ氏で、ふだんの猫背で鬱々としたあやめ氏のほうがお芝居なのかにゃー？
　吾輩混乱してきたにゃ。

　人間というものは、ひとりのなかに、いろんな人がいることもあるみたいにゃ。

「人はいくつもの仮面を持っていて、時と場合によって違う仮面を被って生きている……それを『ペルソナ』というそうにゃ」
　猫の中にも哲学を語るものはいる。
　年老いた賢者猫が髭をしごいて重々しく語るのを若い猫が聞いている。
「ぺるそにゃ……」
「ペルソナ」
「ぺうそにゃ……言えないにゃ」
「いずれにせよ、猫には理解しがたい概念にゃ」
「あやめ氏はだからこそ、猫を飼っているのかもしれないにゃ。猫にはぺるそにゃがないから、猫の前では人もぺるそにゃを被って演じなくていいにゃ。きっとほっとするにゃ」