寝子召地蔵と忘れじの念い｜リアクション

寝子召地蔵と忘れじの念い

　あくる日、智依子は楓を連れて寝子召地蔵を再訪していた。
　昨夜、不思議な夢を観て、なんだかそうしたくなったのだ。
　それは子供の頃の自分の近況報告。
　熱っぽい興奮と喜びに満ちた声を聴けて、今の幸福を確かめられて。
　お陰で心地よい寝覚めを迎えられた。
　なぜか出しっぱなしのラジカセについて娘に尋ねられたが、智依子にも理由は分からなかった。
　けれど、あの鮮明な夢を観たのはきっとそのせいなのだろう。
　智依子と楓は並んで地蔵に両手を合わせ、お菓子を供えてその場を後にする。
　ほどなく現れた蕎麦人と二人はすれ違い、短い会釈をして駅へ向かった。
「…………」
　親子にも姉妹にも見える二人を見送ってから、蕎麦人もまたお地蔵様の前へ立つ。
　聴くに堪えず途中で止めたままのテープをお供えの隣に置き、鼻を鳴らして。
「……余計なことすんなよ」
　今度は拝むことなく、すぐに背を向けた。
　その燻ぶった憤りを。
　あの日抱いた少年の苦悩――その堪え難きを。

　寝子召地蔵は、いつかお救いくださるのだろうか。

　遠ざかる蕎麦人のどこか寂しげな背中を、スズキユキは見送っていた。誰に悟られることなく。

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あとがき

担当マスター：津軽無色
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　改めまして、津軽無色です。
　このたびはご参加、誠にありがとうございました。
　何と言いますか、皆さんのバッグボーンに圧倒されっぱなしの執筆となりました。
　アドリブに甘えさせていただきつつできる限り表現に努めたつもりですが……。
　気に入っていただければ嬉しいです。

　またご縁ができる日を楽しみにしております。

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