寝子召地蔵と忘れじの念い｜リアクション

寝子召地蔵と忘れじの念い

「あ～、どうすっかな～」
　その日、霧下蕎麦人は寝子温泉のあたりを、無為にぶらついていた。
　何のことはない、ヒモらしく関係を持つ女性の一人に小遣いをせびりに来たのだ。
　ところがちょっとした行き違い――と蕎麦人は思っている――から彼女は逆上、終いには包丁まで持ち出して「二度と顔を見せないで！」と来た。
　蕎麦人は命からがら逃げ延び、以後行く当てもなくただ歩いている。だって金ないし。
「お、そういえば」
　ふと、思い至る。
　確かこの辺に地蔵堂があった筈だ。
「せっかくだからなんかおがんどこ～。いつか刺されませんように～、なんてな」
　さっきの出来事に反省はないが、痛い思いをするのは御免だ。
　そうして寝子召地蔵の元を訪れた蕎麦人は、そこで奇妙な品を見つけた。
「カセットテープ？　いや古いな～、デジタル移行しろよデジタル」
　好き放題言いながら無遠慮に手に取った瞬間、へらへらしていた顔が俄かに強張った。
「……あ？」
　なぜなら、そこには、自分の名前が記されていたから。

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